千年前の物語 6

文字数 907文字

 ニシナーの慰めの言葉が心に届いたのか、届いていないのか、ソイロークはうなだれる。

 こうしている間にも、時間は残酷に過ぎていく。その静寂を邪魔するように声が上がった。

「敵軍に動きがありました!!」

 敵国の軍が進行を始める。ソイロークは剣を強く握りしめて立ち上がった。

 勇者は人々の希望だ。感情を押し殺し、凛と澄ました顔をする。

 国の兵士や、冒険者達の寄せ集めの軍をかき分けてソイロークは先頭に立つ。

 ニシナーの支援魔法が掛かると、剣を掲げた。

「行くぞー!!!」

 弾けたようにソイロークは敵国の軍目掛けて突っ込んだ。その後を追うように叫びながら味方が続く。

 ソイロークが大剣を軽々と振り回し、数人まとめて斬り捨てる。

 もう何も考えたくない。ソイロークは返り血を浴びながら無心で剣を振るった。

 後ろで詠唱を始めたニシナーも似たような気持ちだ。今から自分はこの魔法で大勢の人の命を奪う。

 業火が射出され、敵国の兵士たちを焼き焦がす。その様子をニシナーはじっと見ていた。

 フードを深く被り、身を隠していたサズァンも空から闇の大剣を降り注がせる。

 圧倒的な力で暴れまくるソイロークと、それを支えるニシナー。

 一時間も戦うと、敵は敗走を始めた。それを見て味方陣営は歓声を上げる。

 自陣へ戻ってきたソイロークの白い鎧は、敵の血で赤黒く染まっていた。



 夜になり、簡易テントの中にソイロークとニシナーは居る。

「寝付けないのですか、ソイローク」

「あぁ……」

 ニシナーの言葉に短く返し、横になったまま目を瞑る。

「人を斬ったのは初めてではないが……」

 ポツリと言葉を(こぼ)し始めた。

「俺が斬ったのは、悪党だけだった。だが、今日の相手は違う。国に仕えた人間だ」

「ソイローク。夜に難しい考えをすると、悲観的になりますよ」

「あぁ。だが……、俺は何と戦ったんだろうな。彼等も国のお偉方に利用されただけだ」

 そこまで言った後にソイロークはまた話し始める。

「誰しも皆、平和に生きたいはずなんだ。だが、たった何人かの野心や野望の為に、大勢が死ぬ」

「ソイローク……」




 その後、ソイロークや味方の軍が国境付近で追い返しているが、敵国の攻撃は一ヶ月に渡り続いた。
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登場人物紹介

名前:ムツヤ・バックカントリー


 裏ダンジョンを遊び場にする主人公、ちょっと頭が残念。

名前:モモ


 オークの女の子

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