千年前の物語 10
文字数 1,001文字
「来たか、娘よ」
枯れたダンジョンの奥深く。突如聞こえた声にサズァンは驚き、周りを見渡す。
「ここだ」
黒い魔石から声が出ているようだ。サズァンはいつでも魔法を放てるように構えながら近付く。
「そう警戒しなくてもいい。手を出そうにも、俺は話す以外何も出来ないからな」
魔石の声は、軽く笑いながらそう言った。
「あなたは何者なの? 魔人エィノキ?」
「そうだ。正しくは、魔人エィノキの精神を複製した魔石だ」
サズァンは意味が分からないが、納得するしか無さそうだ。
「そう、どうだって良いわ」
「勇者はどうした?」
ソイロークの事を尋ねられて、サズァンは視線を逸らす。
「ソイローク様は、戦争で亡くなったわ……」
「戦争か、俺の思った通りだな。魔人が倒され、疲弊し、荒廃した国が残れば、これぞ好機と攻め入るだろうな」
「原因を作ったのはあなたでしょう!!!」
サズァンは魔石に向かって怒鳴る。
「そうだろうな、だが、俺の目的の為には仕方が無かったのだ」
「その身勝手な目的とやらのために!! 何人の人が犠牲になったと思っているの!?」
「その犠牲、それこそが俺の目的だ」
やはりこの魔人は狂っている。魔石を叩き割ろうとした瞬間、またエィノキが語り始めた。
「まぁ、待て娘。お前はその目で何を見てきた」
「目で?」
サズァンはピタリと止まり、質問の意図を考える。
「この世は残酷だっただろう? 訳の分からない内に産み落とされ、親も選べない、国も選べない。ただ苦しむだけに産まれ、死んで逝く者もいる」
サズァンは魔石に伸ばした手を下に下げた。
「生きても地獄だ。病気になり苦しむかもしれない。凄惨な事件に巻き込まれるかもしれない。飢えて死ぬ、戦って死ぬ。この世に生きる限り、絶対の安全や安らぎなど無いのだ」
エィノキは黙るサズァンを前に続ける。
「そして、苦しい思いをし、生き延びたとて、老いがやって来る。いずれは誰しも死という残酷な未来が待っている」
「生とは狂気だ。そして、悲劇だ。俺の真の目的は、全ての生物の救済。等しく全てを無に返すのだ」
サズァンはため息を付いた。
「狂っているのはあなたよ」
「俺がか? それを言えば世間や世界の方がより狂っていると思うがな」
再び魔石に手を伸ばす。
「サズァンよ、神にならないか?」
突然、名前を呼ばれ、突拍子も無い事を言われて、少し頭が回らなかった。
「神とは言え、人々に崇められる神ではなく、邪神だがな」
枯れたダンジョンの奥深く。突如聞こえた声にサズァンは驚き、周りを見渡す。
「ここだ」
黒い魔石から声が出ているようだ。サズァンはいつでも魔法を放てるように構えながら近付く。
「そう警戒しなくてもいい。手を出そうにも、俺は話す以外何も出来ないからな」
魔石の声は、軽く笑いながらそう言った。
「あなたは何者なの? 魔人エィノキ?」
「そうだ。正しくは、魔人エィノキの精神を複製した魔石だ」
サズァンは意味が分からないが、納得するしか無さそうだ。
「そう、どうだって良いわ」
「勇者はどうした?」
ソイロークの事を尋ねられて、サズァンは視線を逸らす。
「ソイローク様は、戦争で亡くなったわ……」
「戦争か、俺の思った通りだな。魔人が倒され、疲弊し、荒廃した国が残れば、これぞ好機と攻め入るだろうな」
「原因を作ったのはあなたでしょう!!!」
サズァンは魔石に向かって怒鳴る。
「そうだろうな、だが、俺の目的の為には仕方が無かったのだ」
「その身勝手な目的とやらのために!! 何人の人が犠牲になったと思っているの!?」
「その犠牲、それこそが俺の目的だ」
やはりこの魔人は狂っている。魔石を叩き割ろうとした瞬間、またエィノキが語り始めた。
「まぁ、待て娘。お前はその目で何を見てきた」
「目で?」
サズァンはピタリと止まり、質問の意図を考える。
「この世は残酷だっただろう? 訳の分からない内に産み落とされ、親も選べない、国も選べない。ただ苦しむだけに産まれ、死んで逝く者もいる」
サズァンは魔石に伸ばした手を下に下げた。
「生きても地獄だ。病気になり苦しむかもしれない。凄惨な事件に巻き込まれるかもしれない。飢えて死ぬ、戦って死ぬ。この世に生きる限り、絶対の安全や安らぎなど無いのだ」
エィノキは黙るサズァンを前に続ける。
「そして、苦しい思いをし、生き延びたとて、老いがやって来る。いずれは誰しも死という残酷な未来が待っている」
「生とは狂気だ。そして、悲劇だ。俺の真の目的は、全ての生物の救済。等しく全てを無に返すのだ」
サズァンはため息を付いた。
「狂っているのはあなたよ」
「俺がか? それを言えば世間や世界の方がより狂っていると思うがな」
再び魔石に手を伸ばす。
「サズァンよ、神にならないか?」
突然、名前を呼ばれ、突拍子も無い事を言われて、少し頭が回らなかった。
「神とは言え、人々に崇められる神ではなく、邪神だがな」