研究者 3

文字数 1,326文字

「なるほど、事情は分かった」

 長話になるだろうと、途中ギルスは紅茶を入れてくれた。

 話を聞き終わるとすっかり冷めてしまったミルクと砂糖をたっぷりと入れた紅茶を一口飲んで言う。

 ムツヤ達は裏ダンジョンの事、キエーウがそこで手に入る裏の道具を狙っていること全てを話した。

「到底信じられない話だが、論より証拠ってか。本物の魔剣や見たこともない魔道具を見せられたら信じるしかないわな」

「そこでだ、お前にはこの裏の道具の研究を頼みたい」

 アシノの言葉にギルスは首を横に振る。

「お断りだ、俺はただの武器屋の店主。研究なんてバカバカしくて出来っこないね」

「もー! なんでよー!」

 ルーはむくれて地団駄を踏む。次に話し始めたのは意外にもモモだった。

「ギルス、頼む。キエーウは裏の道具を使って亜人を殺そうとしている」

 真面目にそう言われるとギルスも腕を組んで少し唸ってしまう。そして唐突に口を開く。

「それじゃあ…… 俺の昔話もちょっとして良いか?」

「俺が昔、王都で研究員をしていた事は知っているかな?」

「はい、アシノさんから聞きました」

 ムツヤは相づちを打つ、片目を開けてギルスはムツヤを見るとそのまま上を向いて話を続ける。

「死ぬほど勉強してやっと入った研究員だったが、現実は俺の理想とは全く違うものだった」

「俺はただ、純粋に道具の研究がしたいだけだったが、現実は馬鹿な派閥争いに、足の引っ張り合いだらけだった」

 濃いめのミルクティーを飲んでギルスは続けた。

「自由に研究をするためには成果を上げなくてはならない。だから俺はそこでも必死に研究をした」

 皆が真剣に話を聞く。ムツヤも何のことだか分からないが必死に理解しようとしている。

「そんな中、俺はある1つの道具についての論文を書いたんだ『火の魔石と氷の魔石を混在させて使う研究』ってやつだ」

 それを聞いたルーは「えっ」と声を上げた。

「それ、知ってるわ。1つの武器に火の魔石と氷の魔石を同時に装着させる事に成功したっていう奴でしょ? でもその著者って……」

「あぁ、俺は当時の上司に論文を見せたんだが、丸パクリされちまったんだ」

 ムツヤは何のことだかわからないでいたが、あまり良いことではない事は何となく察する。

「もちろん抗議はしたさ、だが誰も俺を信じてはくれなかった。その上俺は左遷されちまって、1日中骨董品の道具をただ鑑定する仕事になっちまった」

 そこまで言うとギルスは笑いながら言った。

「そしたらさ、何か急に全部が馬鹿らしくなってよ、仕事やめちまったよ。そんで今は武器屋の店主ってわけ」

「そうだったの……」

 ルーは初めて聞いたギルスの詳しい過去話に同じ研究者として物凄く気の毒に思う。

「ギルス、大変だったんだな」

 モモも研究については良く分からないが、ギルスが酷い思いをしたことだけは理解した。恐らくこの店にいるほぼ全員が同じ感情を持っているだろう。

「だから、もう研究なんてまっぴらごめんだね。それに俺は研究がしたいだけと言ったが、もちろん研究した結果世間に評価されたいという欲もある。話を聞く限り裏の道具の話はおおやけに出来ないんだろう?」

 みんな言葉を失った。ギルスを何と言って説得すれば良いのかわからなくなった。
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登場人物紹介

名前:ムツヤ・バックカントリー


 裏ダンジョンを遊び場にする主人公、ちょっと頭が残念。

名前:モモ


 オークの女の子

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