第258話父哲夫と母彰子の会話

文字数 1,144文字

写真家森田哲夫は、その妻にして源氏物語、万葉学者の妻森田彰子と話をしている。
その話題は、都内に住む息子の祐についてである。

哲夫
「祐も、活躍を始めているようだよ、平井恵子先生も、ライブバーの親父もほめていた」
彰子は、胸を抑えた。
「あの祐だよ、危ないよ、きっと何かある、失敗して泣いているかも、それが心配なの」

哲夫はやわらかく笑う。
「それも経験、でも、祐は立ちあがる、目は輝いている」
彰子は、複雑。
「私も聴きたかったなあ・・・祐のピアノ」
哲夫
「そういえば中村雅子さんが、ステージに出したいとか、本格的に鍛えたいとか」
「秋山先生の件もあるし、古今でも写真を探していて、大変かな」
彰子は、顏を曇らせた。
「そこなの・・・あの子、神経細かいし、すごく根を詰めるから」
「それで何度も身体壊して」
哲夫
「まあ、それでもなお、復活して来た、大丈夫」
「芯は強いよ、這い上がるタイプ」
彰子
「うーん・・・でも心配」

哲夫は少し笑って話題を変えた。
「あの桜田愛奈ちゃんが、祐と仕事をしたいって、大騒ぎになった」
彰子の顏が変わった。
「えーーー?愛奈ちゃん?」
「だめだよ、愛奈ちゃんって、祐の天敵だよ」
「祐は、実は、すごく嫌がっていたよね、逃げてた」
「それを愛奈ちゃんが、追っかけ回して」
「祐は、どうするのかなあ」
哲夫
「断り切れないかなあ」
「愛奈ちゃんは、我がままだから」
「祐は、やさしいし」

彰子はため息。
「祐って、女難かな」
哲夫は、彰子を抱き寄せた。
「ライブバーで純子さんと真由美さんとも話をしたよ」
「二人とも、祐をしっかり守る感じ、心配ないよ」
「芳江さんも、安心していた」

彰子は、哲夫に抱き寄せられると、弱い。
「そうなの・・・じゃあ・・・いいかな」
「こっちから何か送るよ」
哲夫
「新茶がいいかな」
「それと静岡ならではのお菓子」

彰子の声が湿った。
「この前、平井先生から、祐の古今集仮名序の訳を、こっそり送ってもらったの」
哲夫は、彰子の背中をやさしく撫でた。

彰子は、泣き出した。
「でね・・・悔しいけどね」
「きれいに・・・祐らしくて・・・」
「何か・・・負けたなあ」
「あの…弱虫祐に・・・この私が」

哲夫は、震える彰子の手を握る。
「俺は、邪魔はしないよ」
「でも、協力して欲しいって言って来たら、全力で協力する」
「面白いよ、古今の新訳、写真、イラスト、映像付きなんて」

彰子も哲夫の手をしっかり握る。
「私も、何かしたいなあ、できることないかな」
哲夫は、少し考えた。
「古文の新訳はそれぞれの先生に任せて」

彰子
「うん」

哲夫
「彰子は、瞳が祐を邪魔しないように」

彰子は、真顔に戻った。
「そうだよね、瞳のほうが危ない」
「失恋した腹いせで、祐を攻撃」
「それで、祐がへこむ」
「瞳も限度を知らない時があるから・・・」

哲夫と彰子の話は、長く続いている。
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