第158話吉村里奈の祐への思い②

文字数 1,193文字

私、吉村里奈は、毎日ではなかったけれど(暑い時期、弱っていた祐君を毎日は連れ回せなかった)、祐君と一緒に、明日香村を中心に歩いた。(といっても、ほとんど私の車で万葉集の歌碑の直近まで)

祐君は、歌碑を見ては、うれしそうな顔。
私を入れて写真も撮ってくれた。(構図もピシッと決まっていた、さすが哲夫先生の教育か)

食欲は、8月後半まで変わらなかった。(つまり、半分は残してしまう)
飲みこめない、箸は動かない感じだった。
「そこまで辛い思いしたの?」と、察した。

でも、山の辺の道を歩く時は、うれしそうだった。(可愛く笑った)
「ありがとう、先生」(胸がキュンキュンした・・・そのうれしそうな顔に)

「そんなこと言わないでよ、元気になったら、また一緒に歩くよ」
「それと、大宰府も行こうよ」

「わかりました、約束します」(祐君の目に、力が戻ったような感じ)

だから、今回、祐君を誘ったのは、その時の「約束の旅」。
祐君の回復も確認したかった。

それでも、学者の世界は、「仁義」が大事。
まず、彰子先生に「祐君をお借りしたい」とお願いの電話。

彰子先生は、驚くような、困ったような声だった。
「去年の夏は、本当にありがとう、感謝しています」
「里奈さんがいなかったら、祐がどうなったことやら」
「そうなの、万葉集の研究で、祐を助手に?」
「ありがたいなあ・・・でもね」

私は驚いた。
祐君は、すでに源氏物語研究の秋山大先生と、和歌研究の勲章受章者の平井先生にも見込まれて、仕事を任されている、と言うのだから。

でも、私は、祐君を諦めたくなかった。
実は、祐君のブログを読んで、「その実力と将来性」を深く感じていたから。
「源氏物語」もいいし「古今和歌集」もすごく大変な仕事。
しかし、日本人の全ての根本は「万葉集」にある。
だから、祐君に、もっと万葉集の世界を味わってもらいたい、そして祐君と深く万葉集の話をしたい(もちろん、祐君ならではの、美しい写真も欲しい)

その後、秋山先生と平井先生にも、実は連絡した。
秋山先生
「そうですか、いいことと思います」
「祐君のような子は、どんどん、いろんな勉強をさせたほうがいい」
「吉村先生、よろしくお願いします」
「私の家にもいらっしゃい、お見せできる本もあるかもしれません」(本当にやさしく、ありがたかった)

平井先生
「そうですか・・・万葉の旅ですか・・・」
「いいですねえ・・・私も行きたいくらいです」
「何しろ、祐君は、もう・・・好きです」
「やまと歌の、心を知っています」
「祐君をよろしくお願いします」
「里奈先生も、私の家にどうぞ、お待ちしています」(平井先生もやさしい、うれしかった)

ただ、秋山先生と平井先生から、同じことを言われた。
「祐君には、熱い目を寄せる二人の女性がいますよ」
「それは慎重に、祐君が苦しむことのないように」

「マジ?彼女候補?・・・」
「はぁ?」
私は、ちょっと不安、そして気に入らなかった。
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