第221話佐々木教授の研究室にて①

文字数 1,161文字

祐は、純子、朱里、万葉集講義の佐々木教授と大学構内に戻った。
次の講義は3時からなので、佐々木教授の研究室で、休憩することになった。

祐は辛そうに下を向く。
「いろいろと、ごめんなさい」

佐々木教授は、首を横に振る。
「顔を上にあげなさい、祐君は何も悪いことはない」
「むしろ謝ってもらう立場、そこを間違えると、話がおかしくなる」

祐が、顔を上に上げると、そのまま電話をかける。
「佐々木です、森田祐君の件です」
「まず、オーケストラ部員の吉野の暴行は当然として」
「ライブの店に駆け付けた本学総務課職員鈴木と、オーケストラ顧問尾高には、教育者として、いや、その前に社会人として、恥ずかしいほどの礼を逸した対応を確認しました」
「詳しくは、報告書を作成しますので、厳正な処置を望みます」
「もちろん、私も理事会にて、報告します」

電話を終えた佐々木教授は、祐に笑顔。
「学長も気にしていたの、だから報告したよ」

これには、祐と純子、朱里も引いた。
「あ・・・」と三人とも、声が出ない。

佐々木教授は祐をしっかりと見て、諭す。
「大学が嫌とか、弱気にならないでね」
「祐君は、何も悪くないの」
「悪くない人がいなくなる必要はないから」
「もっと、胸を張りなさい」

祐は、それでも不安を口に出す。
「オーケストラは、本当に廃部でしょうか」
純子も、続く。
「廃部になると、またや祐君が逆恨みされるような気がします」
「何しろ、人数が多い、多勢に無勢で」
朱里も、祐を心配する。
「それでなくても、いろんな仕事もあるので、少し可哀想です」

佐々木教授も、これには苦笑い。
「私も、祐君と社会人講座やりたいしね、明日だよね」

祐は佐々木教授の顔を見た。
「オーケストラ部全員に非があるわけではないので、廃部は希望しません」

純子は、また違う不安を口にする。
「キャンパスで詰め寄ったことと、ライブバーでの暴行と暴言が、ネットで拡散するかも」
「そうなると・・・批判されるし」

朱里もスマホで動画を見た。
「大学への批判が多いです」
「オーケストラ廃部しろ、も多い」
「祐君は・・・人気・・・上手とか可愛いとか」

祐は困り顔。
「音楽家でありません」
「今、そんな状態ではない」

研究室のドアがノックされ、オーケストラ部部長小林、朝、祐に声をかけたヴァイオリンの菅野と杉田が神妙な顔で入って来た。

オーケストラ部部長小林、ヴァイオリン菅野と杉田は、祐に謝罪した。
「本当に度重なる失礼、申し訳ない」

祐は、頭を下げない。
「音楽が嫌いなわけではないです」
「でも、当分、長時間、楽器に触ることは無理なんです」
「理由は、コアな個人的な話、相手のこともあるので、言えません」
「お願いしたいのは、僕に誘いをかけないで欲しい、それだけです」
「それが守られれば、オーケストラ部の廃部は望みません」

佐々木教授は、黙って紅茶を淹れ始めている。
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