第282話風岡春奈の「森田祐論」?結局「ご飯炊き」

文字数 1,393文字

私、風岡春奈は、祐君が「最近、音楽の世界に引き込まれ過ぎているのではないか」と懸念している。
祐君自身が、「音楽は余芸」と言い切っているのに、その音楽性とビジュアル、音楽界への知人の多さから、どうにもならないことになり始めている。
しかし、音楽は、音楽大学とか、その方面にも、優れた才能を持つ若い人がいる。
だから、祐君をわざわざ引き込む必要は、ない。
そして、音楽より、もっと将来が危ぶまれているのは、日本の古典文学である。
文科省は、どんどん予算を削り、古文学者は高齢化の一途。
日本人でありながら、人麻呂も定家も知らない人は、ますます多くなっている。
源氏物語も枕草子も、ほぼ知らない若い人も、増えていることは事実。
そのような時代に現れた新星が、森田祐。
その言葉の感性、歌の心、歌人の心を感じ取り、現代の人に響く訳をさせたなら
天下一品、そんな森田祐は、もっと古典文学に専念するべきなのである。

おっと・・・ここで「森田祐論」を始めても仕方がない。
それは、ともかく、私は森田祐に逢いたいのだ。
純子とか、真由美、田中朱里の小娘は、眼中にない。
最近、チラリと桜田愛奈の話も聞いたけれど、彼女は、そもそも「別世界」の小娘。

・・・って話がまとまってはいないが、私は祐君にメッセージを送った。
「古今の打ち合わせを、祐君の部屋で行いたい」

いつもより早く、返信が来た。(いつもは、私、春奈を恐れて、遅れ傾向)
「了解しました、今、銀座ですので、1時間ほどで戻ります」

「銀座だと?しかも女つき?」と、癪に障ったけれど(まあ、純子か真由美、朱里程度と思った)、今さら仕方がない。

「純子さんでも、真由美さんでも、朱里さんでも、ついでに連れて来てもいいよ」と、年上女性の余裕を見せた。
(実際、祐君みたいな、可愛い系の男の子には、私のような、しっかり系の年上女がベストと思っている)

さて、私が約40分後に、祐君のアパート前に立っていると、真由美が大学から帰って来た。
真由美
「あれ、春奈さん、今日は予定にありました?」
私は、焦った。
「あ・・・ないけど・・・古今をもう少し話を詰めたくて」
真由美
「祐君は純子さんと朱里さんと、今日は銀座」
「楽器店で、ミニコンサートもしたみたい」
「お昼にはライブバーでもやって、音楽漬けですね、最近」
私は、そこで、持論を述べた。
「そこなのよ、私が、今日来たのは」
「このまま、何もしないと、ますます、音楽に持って行かれそうな気がして」
「それが心配なの」
真由美は苦笑
「そうですねえ・・・動画も人気で、フォロワーも増加の一途」
「祐君は、マルチ人間ですよね」
「おそらく、写真も映像も、何か持っているような感じ」
私は、うなった。
「そうか・・・それ・・・哲夫先生の影響だよね」
「仕方ないなあ・・・」

そんな話を祐君の前でしていると、スマホが光った。
純子からだった。
「春奈さん、祐君の希望で、今夜は散らし寿司になりました」
「今、駅前のスーパーで具材を調達中」
「それでお願いです」
「真由美さんも、祐君の部屋の合鍵を持っていますので、ご飯を炊いて欲しいんです」
「あ・・・祐君が、ほんの少しやわらかめにとか・・・細かい注文を(笑)」

真由美が、私の袖を引いた。
「やりますか・・・春奈さん」
私は、どうもこうもない。
「何合?」
真由美
「うーん・・・五合くらい?」

結局、祐君の部屋で最初にやることは、「ご飯炊き」になってしまった。
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