第259話源氏学者秋山康と妻の思い
文字数 1,097文字
源氏学者の私、秋山は、「あくまでも内密」の約束で、平井恵子先生から、祐君の古今和歌集仮名序現代語訳と第一巻の現代語訳を手に入れていた。
(もちろん、祐君の将来も平井先生との信義も守るので、絶対に他には、漏らさない)
まず読んだのは、祐君の古今和歌集仮名序現代語訳。
とにかく、やわらかく、しなやかに、和歌の心、日本人の心が、花開いたような美しさ。
「これは・・・」
「これこそ、和歌だ」
「新奇のようで、そうではない」
「読み続けると、日本人で良かった、生きて来て良かったと思えて来る」
「これこそ、世に出さなければならない」
「とにかく大事に、つぶさないように、祐君を育てなければならない」
そこまで思って悔しいのは、自分の高齢。
「75を越えて・・・もうすぐ80」
「いつまで、祐君と話ができる?」
「持って10年?」
「短過ぎるよ、祐君」
妻の体調も、芳しくはない。
ふさぎがちで、祐君たちが来る時だけは笑顔。
帰れば、寂しくなって、寝込む。
平井恵子先生から、「出版時に推薦文を書いて欲しい」のお願いもあった。
何もためらいはない。
秋山康の全力を込めた、推薦文を書きたい、そう思う。
祐君が古文について語った言葉も聞いた。
「本棚に埋もれて、埃まみれな古文を」
「しっかりきれいに、輝かせたい」
「日本人の宝なので」
「本棚に埋もれて」は、旧弊な学者たちが、細かな字句にこだわり過ぎ、古文の心を押し殺してしまったことのたとえ。
「埃まみれ」は、余計な解釈を付け過ぎて、文や歌の本質から離れてしまったことへの批判。
祐君の言う通りと思う。
「このままでは、万葉も古今も新古今も、源氏も、旧弊至上主義の学者の玩具」
「いつかは生気を失い、ひからびて捨てられる運命」
私、秋山康は、それは絶対に嫌だ、認めたくない。
だから、最新の技術を使った古今和歌集新訳を出すべきと思う。
古今に詠まれた花鳥風月を映像に、写真に、イラストには、素晴らしいアイディア。
文字だけではない、目で見て、歌人の心を知る、それも重要で楽しいこと。
そんなことを考えていたら、妻がパタパタと動き始めた。
そう、今日は祐君たちが来る日曜日なのだ。
玄関から「藤」の香が漂って来る。
私も妻も好きな香りだ。
私も、座ってはいられない。
玄関に出たら、妻の頬が紅潮している。
「出迎えようか?」
声をかけたら
「はい!」と女学生のような高い声。
妻と、玄関に出た。
四月も中旬のふんわりとした、やわらかい風。
青空が広がって、実に気持ちがいい。
「あなた!」
「あそこに祐君!」
妻は、思い切りはしゃいだ声。
「うん、いい顔だね」
「もう!彼女たちに囲まれて」
「ちょっと悔しいかなあ」
妻の妬いた顏も、時にはうれしいものだ。
(もちろん、祐君の将来も平井先生との信義も守るので、絶対に他には、漏らさない)
まず読んだのは、祐君の古今和歌集仮名序現代語訳。
とにかく、やわらかく、しなやかに、和歌の心、日本人の心が、花開いたような美しさ。
「これは・・・」
「これこそ、和歌だ」
「新奇のようで、そうではない」
「読み続けると、日本人で良かった、生きて来て良かったと思えて来る」
「これこそ、世に出さなければならない」
「とにかく大事に、つぶさないように、祐君を育てなければならない」
そこまで思って悔しいのは、自分の高齢。
「75を越えて・・・もうすぐ80」
「いつまで、祐君と話ができる?」
「持って10年?」
「短過ぎるよ、祐君」
妻の体調も、芳しくはない。
ふさぎがちで、祐君たちが来る時だけは笑顔。
帰れば、寂しくなって、寝込む。
平井恵子先生から、「出版時に推薦文を書いて欲しい」のお願いもあった。
何もためらいはない。
秋山康の全力を込めた、推薦文を書きたい、そう思う。
祐君が古文について語った言葉も聞いた。
「本棚に埋もれて、埃まみれな古文を」
「しっかりきれいに、輝かせたい」
「日本人の宝なので」
「本棚に埋もれて」は、旧弊な学者たちが、細かな字句にこだわり過ぎ、古文の心を押し殺してしまったことのたとえ。
「埃まみれ」は、余計な解釈を付け過ぎて、文や歌の本質から離れてしまったことへの批判。
祐君の言う通りと思う。
「このままでは、万葉も古今も新古今も、源氏も、旧弊至上主義の学者の玩具」
「いつかは生気を失い、ひからびて捨てられる運命」
私、秋山康は、それは絶対に嫌だ、認めたくない。
だから、最新の技術を使った古今和歌集新訳を出すべきと思う。
古今に詠まれた花鳥風月を映像に、写真に、イラストには、素晴らしいアイディア。
文字だけではない、目で見て、歌人の心を知る、それも重要で楽しいこと。
そんなことを考えていたら、妻がパタパタと動き始めた。
そう、今日は祐君たちが来る日曜日なのだ。
玄関から「藤」の香が漂って来る。
私も妻も好きな香りだ。
私も、座ってはいられない。
玄関に出たら、妻の頬が紅潮している。
「出迎えようか?」
声をかけたら
「はい!」と女学生のような高い声。
妻と、玄関に出た。
四月も中旬のふんわりとした、やわらかい風。
青空が広がって、実に気持ちがいい。
「あなた!」
「あそこに祐君!」
妻は、思い切りはしゃいだ声。
「うん、いい顔だね」
「もう!彼女たちに囲まれて」
「ちょっと悔しいかなあ」
妻の妬いた顏も、時にはうれしいものだ。