第293話VS大塚教授(守旧派学者)②大塚教授は完敗を認め

文字数 1,824文字

私、大塚誠は、本大学の古文の教授、派閥としてはT大閥、伝統的古今解釈を徹底的に教え込まれ、格式高い古文の解釈、研究を続けて来た自負がある。
しかし、最近、学生から、「旧来ではありえなかった」「逆指摘」を受けることが多くなっていた。

「先生、その現代語訳、よくわかりません」
「恋の歌で、好きであるとか、愛しているぞよ、なんていいません」
「ましてや、好きであったわい・・・ありえません」

確かに、そうかもしれない、と思った。
しかし、解釈を含めて、大先生たちが訳した言葉は一字一句変更してはならない、と思っていた。(そんな失礼なことをすれば、派閥から白い目で見られ、やがては追放の憂き目になる、とにかく狭くて、同調圧力の強いのが、学者の世界なのだ)

だから、最近の学生の反論の根拠らしい「森田祐の古文ブログ」(しかも、本学の新入生だった、情けないことに)については、「門前払い」を決めた。(早速、T大閥及びK大閥まで、危険で下劣極まりない、として森田祐ブログを排除する旨、連絡を取った)(敵が成長する前に、芽の段階で摘んでしまう、そんな戦略だ)(他大学の先生方も、同じような指摘を受けていたらしい、すぐに私の戦略に乗った)(かの平井恵子先生と親しい旨の情報も入ったので、しっかりと釘をさした)(T大閥とK大閥の先生方は、高齢者ばかり、ブログなど読まない、II音痴ばかりでもある)

その森田祐の長年の知己らしい、万葉集の佐々木教授も、脅かした。
「本学の森田祐の愚劣極まるブログのために、我々古今学会の面々が、大きな被害を受けています」
「そんなブログは即刻停止、もし、従わなかったら、教授の指導に従わない、ということで退学処分としましょう」
「もし、佐々木教授が、長年の付き合いから、同情され、反対されるのならば、佐々木教授とて、容赦しませんよ」

佐々木教授は、「うんうん」と、聞いていた。
「どうなることか、でも、大塚さん、あまり動かない方がいいかな」
「本学内で、動きを留めたほうが無難かな」(この言葉は、不思議だった)

しかし、すでに、あちこちに声をかけてしまったし、K大閥の先生にも、「佐々木教授を脅かすよう」お願いしてしまった。(今さら、後には引けないのである)

結果を見れば、佐々木教授の指摘は正解だった。
「森田祐」の身分からして、とても私には、太刀打ちできなかった。
かの、お世話になった森田荘平先生のお孫様、義夫教授、大写真家の哲夫さんの、ご子息。
よくよく聞けば、秋山康大先生のお弟子さん(秘蔵っ子)でもあるらしい。

・・・それはともかく・・・
初めて、真面目に読んでみた。

すると・・・祐君のブログは、実に読みやすい。
伝統的な訳ではない。(我々が普通に使う現代語で、きれいに訳してある)
しかし、我々が研究して来た要点は、全くはずしていない。
一つ一つの言葉が、吟味してある、いい言葉、美しい言葉だ。
確かに、である調、であるぞよ調より、なめらかだ。

私は、気がついた。
「祐君、要するに、言葉を入れ替えた・・・だけかな」

祐君は、頷いた。
「はい、現代語訳なので、現代の人が使う言葉で、それも歌なので、音とかなめらかさも大事、濁音は最低限に」
そして付け加えた。
「苦労もします、どの言葉を使おうかなとか、こんな表現は死語かなとか」
「歌を詠んで、それぞれの時代の人は、その時代の感性にあった言葉、その時代の現代語で、理解したはず」
「その中で、である調とかは・・・夏目漱石とか、明治期には、そうかな・・・いや・・・歌を理解するのに、違うかな、とか」

「確かに、時代時代で、話し言葉、その時点での現代語も違う、固定化は難しい」
「でも、読みやすいなあ・・・祐君」

祐君は、苦笑。
「源氏には苦労しています」
「主語もないし、相当補わないと、源氏は訳せない」

佐々木教授が意外なことを祐君に言った。
「祐君訳の源氏も読んでみたいな・・・やる?」
祐君は、思いっきり首を横に振った。
「秋山先生の仕事で、手一杯」

そんな会話があったけれど、私は、考えを変えた。
「森田祐のブログ」「古今解釈」は、間違いはない。(伝統的現代語訳を、なめらかに美しく言い換えただけだ)(それが、難しいことだけれど)
それができる森田祐君は、稀有な才能と熱意を持っている、と確信した。
だから、むしろ、積極的に支援するべき、ブログであり、学生である。
私は、早速、派閥内にお詫びの連絡を入れ、必死に謝った。(そうしないと、私の立場が危なくなる)
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