第116話祐は古今和歌集仮名序現代語訳を春奈に渡す

文字数 685文字

翌朝になった。
午前9時過ぎに起きた祐は、久しぶりの空腹感を覚えた。
「現代語訳の自分なりの点検は終わった」
「後は、他人がどう判断するかだけ」なので、「朝食を何とか」と考えた。

何しろ、冷蔵庫には何もない。
「コンビニで何か、ビスケットでも」

そう思って身支度、アパートを出ようとしていると、スマホが鳴った。
風岡春奈だった。
「祐君、おはよう、現代語訳は進んだ?」


「はい、何とか」

春奈
「今から、読みに行っていいかな」

祐は迷った。
何しろ、空腹感が強い。
コンビニは、少し離れた場所にある。
往復で、20分はかかる。
ビスケットとはいえ、食べる時間を考えれば、5分から10分は欲しい。

「春奈さんは、今、自宅ですか?」
調布と千歳烏山の距離も少し考えた。
少し春奈の出発時間を遅くしてもらえれば、朝食もできるかなと思った。

春奈
「いや、もう千歳烏山に近いよ」
「あと10分で着く」

祐は、この時点で朝食を諦めた。
寝坊したのは自分が悪いと思った。
「わかりました、お待ちしています」
と、また部屋に戻る。

「寒いと、失礼になるかな」と思うので、エアコンもつけて、じっと待つ。
「それにしても腹が減った」と思っていると、確かに10分後、チャイムが鳴り、
「春奈です」の澄んだ声、祐はドアを開けて、春奈を迎え入れた。

珈琲は、少しでもコクがあるものを、と思いコロンビアを濃い目に淹れた。
春奈の前に、珈琲を置き、原稿を渡す。

「かなり、伝統とは離れ、異質で、大先生には笑われ、叱られる訳かもしれませんが」
も付け加えた。

春奈は、その祐を手で制した。

「え?」と、驚いた顔で、祐が現代語訳した「古今和歌集仮名序」を読み続けている。
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