第209話平井恵子宅で、祐と女性たち

文字数 1,114文字

古今和歌集の新訳作業は、順調に進んだ。
私、平井恵子にとって、祐君の現代語訳は、とても新鮮で上品、美しい。
かといって奇をてらってはいない、ポイントは外していない。
少々問題があるとすれば、風岡春奈の注釈文が固いこと。
ただ、その注釈文の手直しまでは、祐君に頼みたくない。(祐君が抱えている作業は、多過ぎる、重過ぎるのだから)

お昼は、気分転換を兼ねて、出前寿司。
奈良出身の純子さん、博多出身の真由美さんの口にもあったようで、ホッとした。
祐君は、綺麗な食べ方。
味の薄いネタから、濃いネタへと順を踏んで食べる。
最後は、穴子を美味しそうに食べ、お茶を飲んでいる。
「玉子焼きは?」と聞いたら、「おなか一杯で」と笑う。(18の男の子だから、もっと食べて欲しいけれど・・・お父さんの哲夫さんのほうが、よく食べる)

食べながら、誕生日の話題になった。
純子さんが5月15日、真由美さんが9月25日、私が10月3日、春奈さんが12月24日とスムーズに進んだけれど、祐君は少しためらった。
「あの・・・3月31日です」(恥ずかしそうだった)

女子たちの反応が面白かった。
純子さん
「へえ・・・なんか、可愛い感じ」
真由美さん
「小学校の教室では、一番小さかったの?」
春奈さん
「ねえ、誕生日パーティーは、したの?」

祐君
「プレゼントはもらった、上京する前に」
「父さんからカメラ、母さんからジャケット」(・・・と、そこまでは、女子たちは頷いた)
「姉貴からは・・・」(純子さんと真由美さんが、じっと見る)
「プロティン詰め合わせ・・・好きでないから実家の部屋に、しまってあります」

純子さん
「そんなことして、見つかったら?」
真由美さん
「また、怒られるよ」
春奈さん
「そんなに怖いお姉さんなの?」

祐君は、顔をしかめた。
「野獣です」

純子さんと真由美さんは顔を見合わせた。
「そこまでは・・・お姉さん、可哀そう」

春奈さん
「私と、どっちが怖い?」

祐君は、懸命に考えた。
「うーん・・・ここでは・・・」(じゃあ、春奈さんのほうが怖いの?)

春奈さんが、祐君に迫った。
「そんなに怖くないよ、私」
「祐君のこと、好きだよ、言い方がきついだけ」

祐君は焦り顔になった。
「あ、比較は難しいので・・・今・・・」
「詳しくは言えませんが」
「姉貴は、今・・・鬼の霍乱なので」

ただ、その説明では、さっぱりわからない。
純子さんと真由美さんが、祐君を呼んだ。
そして、祐君がボソボソと「鬼の霍乱」の説明。

それを聞いた純子さん。
「ほー・・・」
真由美さん
「応援するの?」

祐君がためらっていると、真由美さんが、その「説明」を春奈さんと私に。

春奈さん
「姉を思う弟なの?やはり?」

祐君は、首を傾げ、横を向く。(それが、本当に可愛かった)
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