第247話西新宿

文字数 994文字

祐の一行は、少し歩いて都庁へ、そのまま展望室にのぼった。
特に、地方出身女子たちは、興奮した。
純子
「下を歩く人が、ありさんやなあ・・・ほんまに高い」
真由美
「随分、遠くまで見える、これ絶景の一つ」
朱里
「良かった、これだけ見ても、名古屋で自慢できる」

ただ、祐は何度も来ているので、あまり関心はない。
というよりは、ピアノの順番を待つ。
展望室にのぼって、約20分後、祐の番になった。

祐が選んだのは、ショパンのノクターンの3番。
軽やかな、華やかな、そして、どこかしら物思いに沈むショパンが展望室に広がって行く。
その祐のショパンにひかれて、あっという間に、展望室にいたほとんどの人が集まって来た。

スマホで動画を撮る人も多い。
「プロ?マジ?」
「可愛い・・・お人形さん?」
「お肌・・・きれい」
「あの指で触られたい」
様々な囁き声が聞こえて来たけれど、すぐに、聞こえなくなった。
何しろ、集まった人たち全員が、祐の演奏に集中してしまったのだから。

祐は、ショパンを弾き終えて、立ちあがった。
ものすごい拍手が、祐を包みこむ。
ただ、祐は、軽く会釈しただけ。

「プロですか?」
「次のコンサートはいつ?」
「もう一曲!」
等、声がかかるけれど、そのまま、うつむいて、ピアノを離れた。

そそて、純子たちに、頭を下げる。
「ごめん、大騒ぎになって」
純子たちも、状況を理解した。
「うん、逃げよう、キリがない」
真由美と朱里は、祐の腕をゲット。
そのまま、下におりるエレベーターに小走りで向かう。

エレベーターに乗って、一行は、ようやく落ち着く。
純子
「浅はかだった、動画拡散が心配」
真由美
「あれ以上弾けない、一曲限定って書いてあった」
朱里
「追いかけて来る人もいたから・・・あっさり逃げたほうがいいよね」
祐は、顏が青くなっている。
「ピアノは集中していたけれど、終わってからの圧力がすごかった」

都庁を出ると、4月の夕方、やや肌寒い風。
ただ、それ以上に、全員が立ち並ぶ高層ビル群に驚く。


「これ・・・人間が造ったもの?」
純子
「倒れない?・・・って、そんなレベルでないか」
真由美
「ここまで並ぶと・・・無機質の美?芸術?」
朱里
「超都会?すご過ぎて」

「こういう所で生活したら、どんなかな」
純子
「便利のような、でも・・・温かみがない?」
真由美
「短期間ならいいかなあ・・・」
朱里
「私、絶対無理・・・怖い感が強い」

ただ、全員、ワクワクしたような顔で、歩いている。
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