第309話森田哲夫事務所に 愛奈のお願い

文字数 1,582文字

感動気味の中村先生や、盛り上がった聴衆に、祐君は丁寧にお辞儀。
でも、「この後の予定がありますので」と、少しアッサリ気味に楽器店を後にした。
これには、私、田中朱里と純子さんも、慌てた。
純子さん
「予定って何?」(全く聞いていなかったようだ)

「もう少し、中村先生と聴いていただいた皆様と交流はないの?」

祐君は、恥ずかしそうに、首を横に振った。
「気が利いたことも言えない」
「確かに予定があった、思い出した」
「神田事務所に行く」
「愛奈が、用事があるらしい、行かないとうるさい」

祐君は、そのままタクシーを拾い、三人で「森田哲夫事務所」に向かった。

・・・事務所には、確かに愛奈ちゃんが来ていた。(ブンむくれていた)

愛奈ちゃんは、やはり怒った。(怒っても可愛い!)
「こら!祐ちゃん!遅い!」
「どこをフラフラしていたの!」

祐君は、意外に負けない。(愛奈ちゃんには、強い態度を取る、平気みたい)
「銀座でフルート吹いていた、仕方ないよ、忘れたわけでないし」

愛奈ちゃんは、祐君のお尻をキック。(・・・それ、可愛い、私も蹴りたい)
「聴きたかった・・・この薄情者!」

祐君は、横を向く。(小憎らしい感じ)
「愛奈を呼んだら、大騒ぎ、演奏にならない」
「何しろ、国民的アイドルだよね」

愛奈ちゃんは、いきなり、祐君の両頬を、その手で挟んだ。(うわ・・・近い!)
「あのさ、祐君だって、その道はあったのに・・・私だけにやらせてさ」
(祐君にも、子役時代があったようだ)(だから、芸能界にも強いのかな)

祐君は、愛奈ちゃんの両腕をサラリと外し(慣れている感じで)、そのまま話題を切り替えた。
「で・・・スタイリストを変えたいとか?」
愛奈ちゃんは、素直。(この掛け合いが、実にスムーズ、悔しいほど)
「うん、前のプロダクションの人は嫌」
「森田プロの柏木さんがいい、頼んで欲しいの」
(私も、元モデル、森田プロの柏木典子さんは知っている)
(日本のトップスタイリストの一人、国内外の有名女優、モデルを芸術的に仕上げる人だ)

祐君は、含み笑い。(何かを知っているらしい)
「自分で頼めないの?子供の頃は、仲良かったでしょ」
愛奈ちゃんの顏が、いきなり真っ赤。
「知っているくせに・・・この悪魔!」(その悪魔って・・・飛躍し過ぎ、頼んでいるのは愛奈ちゃんなのに)(だから、祐君が我がままって、困るのかな)

祐君は、余裕顏。
「柏木さんは、厳しいのさ、だから一度、断られた」
「愛奈は、感情も、体型管理も不安定、だから、柏木さんは、嫌がっている」
(すぐに感情的になるのは確認済み)(確かに、最近の愛奈ちゃんは、丸い)

愛奈ちゃんは、祐君に手を合わせた。
「ねえ、お願い!愛しの祐様!」
(このすり寄りは、何?)(純子さんもムッとしている)

祐君は条件を付けた。
「ポテチ三週間禁止、食事は和食のみ、いい?」(お・・・さすが祐君・・・具体案を提示したよ、納得できるよ、この案は)
(予想通り)愛奈ちゃんは、途端ににっこり。(・・・わかりやすい性格)
「はい!祐様!」

祐君は、やさしい。
そのままスマホで(おそらく柏木さんに)電話。
「あ・・・典子さん?祐です、お元気そうで」
「で・・・・ごめん、いきなりで」
「愛奈が、どうしてもって・・・アハハ、面倒だね」
「最近、丸々と・・・うん・・・下半身的にね」
(愛奈ちゃん・・・ムッと祐君を見ている・・・)
(祐君も言い過ぎ、本人がいるのに)
(でも、それが出来る関係もうらやましい)
「ああ、受けてくれる?助かります、忙しいのに」
祐君は、愛奈ちゃんにクールサイン、愛奈ちゃんはホッとした顔になった。(一件落着のようだ)

そんな、やりとりを終え、雑談タイムになった。
純子さん
「私も、美容院探さないとなあ・・・上京したばかりで、よくわからない」
それには、私も納得
「地方出身女子の共通の悩みですよね」

愛奈ちゃんは、祐君をじっと見ている。
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