第370話秋山康が運ばれた病院にて

文字数 1,256文字

翌日早朝、祐たちの一行は、伊東の別荘を出て、秋山康が運ばれた世田谷の病院に向かった。
(姉瞳は、一旦、静岡県東部の実家に戻り、改めて東京に出向くことになった)
(父哲夫と母彰子が長い旅行から戻る日なので、一緒に見舞うため)

病院に着いたのは、出発から約2時間後の、午前10時。
秋山康の元内弟子日村と、平井恵子が病院の入り口で待っていた。

日村は、祐たち全員に頭を下げた。
「ごめんなさい、せっかくの連休中なのに」
平井恵子は、祐を手招き。
「ご苦労様、早く顔を見てあげて」

秋山康は、病院内の大きな個室で、眠っていた。
奥様の美代子が、祐を見て泣く。
「ごめんね、迷惑ばかりかけて・・・」
「そもそも康の不注意で」

祐は、奥様を少し抱いて、静かに秋山康のベッドに向かった。
まず、秋山康を見て、枕元の計器類を見た。
血圧は、上が105下が70と安定している。
脈も70台なので、安心した。

まだ眠ったままで、話が出来ないので、一旦手を握り、再び廊下に出た。
駆けつけた人数も多く、別室で詳しく話を聴くことになった。
(看護師も同席した)

要約すれば
・電話の通り、脚立を使って、書棚の高い所にある書籍を取ろうとして、バランスを崩して、後頭部からフローリングの床に落ちた。(昨日の夕方)
・衝撃が強かったので、出血、そして、一時意識不明になった。
・奥様の美代子が驚いて救急車を呼び、昨日の夜7時に病院に入った。
・意識混濁の状態であるが、「祐君」と何度も言った。
・奥様は、それを聞いて、祐を呼んだ。(本当に申し訳ないと思ったけれど)

看護師からも説明があった。
これも要約すれば
・MRI、CT等の検査で、脳内に大きな損傷は確認できない。
・強い打撲になる。
・高齢なので、回復が遅れると思われる。(早くて数週間)

それらの説明を受けて、元内弟子の日村から、祐に話があった。
「祐君、ご覧の通り、先生は、話ができる状態ではないの」
「それで、連休明けの講演会をどうしようか、ということ」
「祐君にも、講演原稿を書いてもらって、先生も熱心に練習をしていた」
(奥様も、深く頷いて、祐を見た)
元内弟子の日村は、話を続けた。
「出版社の伊藤さんとも相談したの」
「講演会を延期できるかって」
「伊藤さんの見解では、もう難しいらしい」
「チケットもあちこち、有力な学者さんに送付済み」
「期待の声も高いから」

祐は、元内弟子の日村に聞いた。
「先生が読めなければ、日村さんが代読するんですか?」

元内弟子の日村は、首を横に振った。
祐をじっと見た。
「先生のお気持ちは、祐君と思うの」
「だから、意識朦朧としながら、祐君って」

祐は、驚き、難しい顏。
「僕は、まだ大学一年生、しかも入学したばかり」
「いかに代読と言われても・・・」
「大先生達の前で、こんな子供がと、叱られそうで」
「そんなことになると、先生に迷惑かと」

愛奈が、祐の袖を引いた。
「大丈夫、祐ちゃんなら、本番に強いでしょ?」
「弱そうで強いのが祐ちゃん」
ジュリアが、祐の背中をすっと撫でた。
「男の子でしょ?トライしてみたら?」

祐は、腕を組んで考えている。
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