第343話祐はレイラよりジュリアとの演奏に本気

文字数 1,099文字

レイラは、祐の前で、かなり緊張が続く。
「あの・・・私、炎上キャラなんです・・・知ってます?」
祐は、その丸い目をクルクルさせて答えた。
「見たことない、ごめんね」
愛奈は、少しためらったけれど、タブレットで、その問題動画を見せる。

レイラが暴言を吐き、先輩アイドル、ベテラン俳優や歌手がへこむ。
お笑いタレントには、人間扱いしないような暴言。
それを、テレビ局の演出で、ドッと笑い声が包む。
そして、レイラの、得意満面な顏が映し出される。

祐は、じっと見て、レイラに聴く。
「これ・・・演出なの?」

レイラは、焦り顔。
「あ・・・はい・・・」
「嫌いではなくて、本音もあって」

祐は、レイラの顏を見て、それからライブバーの店内を見回した。
「要するに、本物の芸なら、ここでやっても受ける」
「笑いを取れると思います」
「やってみたらどう?」

レイラの顏が青くなった。
「えっと・・・無理かな・・・」
「知らない人ばかりで」

祐は、真面目な顔。
「芸能人は、芸を売るから、売れるから芸能人」
「特定の場所でしか売れない芸は、芸域が狭いとも言える」
「客観的に考えると」

レイラの顏が沈んだ。
「でも、マネージャーが・・・面白いからって・・・」
「受けていて・・・仕事も入って来て」

レイラと話をする祐に、マスターからお呼びがかかった。
振り向くとジュリアが、手を振っている。

祐は、レイラに済まなそうな顔。
「ごめん、今からピアノ弾く」
「興味があったら聴いて行って」
「忙しかったら、帰っていいよ」
「僕も、今日、たまたま、この時間が空いていて」

そのままレイラの反応は見ない。
席を立ち、ジュリアとセッションの打ち合わせを始めている。

言葉に詰まるレイラを、愛奈が諭す。
「祐ちゃんは、嘘を言っていないよ」
「某大先生の講演原稿50枚と、出版用原稿50枚を明後日までに仕上げるの」
「祐君の周囲の女性は、そのスタッフ」
「私は、残念ながら、足手まといなので、文作成は仲間外れ」
「それから、あの金髪グラマー美女は、プロのトップヴァイオリニスト、フランス人」
「祐君と特別の関係にある人」

レイラの「置き去りショック」など関係なく、祐とジュリアの演奏が始まった。
ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタだった。

レイラは、身体が震えるほどに驚いた。
「知らない、難しい曲なのに・・・聴いちゃう」
「これが・・・本物ってこと?」
「祐君のピアノも、ジュリアのヴァイオリンも・・・半端ない」
「炎の音楽だよ、これ・・・」

震えてつぶやくレイラを愛奈がたしなめた。
「うるさい!他の真面目な人に迷惑」
「こんなすごい演奏は滅多に聴けない」

ライブバーは、満員。
全員が息を飲んで祐とジュリアの演奏に聴き入っている。
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