第170話伊東の別荘にて⑧夜明けの祐

文字数 606文字

夜明けの少し前、祐は目覚めた。
寝室の前、二階のベランダで、ぼんやりと、海を眺めている。
遠くに舟が見える。
でも、それも景色の一つ。
何も考えたくない。

喉の渇きを感じたので、一階におりて、ローズヒップのお茶を淹れ、また二階のベランダに戻った。

「この赤?ルビー色?芸術かな」
「この酸味が好き」

祐は、ゆっくりと飲む。
乾いた喉が、そして身体の中が、さわやかな酸味と水分で、満たされて行く。

高校生までの、実家での朝を思い出した。
「毎日、姉貴は、早朝ジョギング」
「一緒に来いってうるさかった」
「でも、拒否を貫いた」
「中学の時は走ったけれど、それほど陸上好きではないから」

でも、自分自身「本当は、何が好きか?」と考えることもある。
「古文?」
「芳江叔母さんが言った、旧弊な、ガチガチの古文から、日本人の心を解き放つ」
「それはそれでいいな・・・でも反発の嵐の航路かな、下手をすると沈没」

「親父のように写真家で、世界あちこちも・・・」
「でも、暑い日、寒い日、危険な国もあるから」

「音楽なんて論外、遊びに過ぎない」

そこまで思って、苦笑する。
「まだ、入学直後、全ての講義が始まっていない」
「今の時点は、まだ高校生みたいなもの」
「考える必要もないか」
「それより、今日は何をするか、どこに行くかを考えないと」

「まあ、城ケ崎、一碧湖、小室山くらいかな」

祐の後ろから、声が聞こえだした。
女性の笑い声が続く。
「起きたのかな」

祐は、自分の寝室に戻った。
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