第280話フルート修理は解決 ピアノとヴァイオリンで聴衆を集めてしまう

文字数 1,398文字

結果的に、女性店員の「修理お断り対応」は、問題の多い行為だった。
祐が持ち込んだ楽器を、しっかりと見ず、目視で安価な楽器と判断してしまった。(修理するより買ったほうが得策と匂わしてしまった)

ただ、祐としては、確かに安価な楽器であっても、お年玉を貯めて買ったフルート。(大好きな村越先輩と一緒の時に買った楽しい思い出もある)(40,000円を29,800円に値切ったのは、愛嬌としても)
そんなことで、少々センチメンタルであっても、今のフルートを使い続けたかったのである。

祐から、その話を聞いた管楽器フロアの里田責任者は、祐に深く謝った。
「祐君、申し訳ないね。教育不足で」
件の女性店員も、顔色を変えて、祐に謝った。
「申し訳ありません、突き放したような言い方をしてしまって」
「お客様の楽器への思いに、鈍感でした」

ただ、祐としては、謝罪より「すぐに修理できるか、できないか」のほうが重要。
だから、再確認することになる。
「修理が出来なければ、他の店に持ち込みますが」

管楽器フロアの里田責任者は、祐のフルートを手に取って、いろいろ確認。
祐の顏を見て、頭を下げた。
「一週間で、直します、徹底的に調整します」

祐も、これ以上トラブルを拡大したくなかった。
「わかりました、お任せします」と、フルートを、件の女性店員に託した。


少し離れて、「やり取り」を見ていた純子、田中朱里、女子高生たちに一斉に安堵の声。
「はぁ・・・ほんまに・・・胸がドキドキや」
「私、足が震えました、でも、よかった」
「まあ・・・あまり責めずに」
「でもさ、祐様のフルートは一週間お預けか・・・それも残念」
「ピアノは聴けるよね」
「今・・・弾いてくれる約束では?」
「私、祐様の伴奏で何かやりたい、ヴァイオリン持っているし」
「あ・・・ずるい・・・」
「いや・・・これが縁というもの」
「でも、祐様が乗ってくれるとは思えない・・・」
「ねえ・・・誰が、それを祐様にお願いするの?」
「私・・・緊張して噛みそう」

そんな話を聴き取っていた純子と田中朱里が祐に。
「祐君、このまま帰れそうにないかな」
「何か弾いてあげたほうが、無難に帰れそうな・・・」

祐より、管楽器フロアの責任者里田の動きが速かった。(祐はどこでも、一歩遅れるから)

里田
「ついでにピアノも弾いて、お願いしたい」
祐は、キョトン顔。
「フルート修理に来たのに、ピアノですか?」(祐らしいボケなので、純子と朱里はプッと吹いている)

ただ、祐はピアノ試奏を断れなかった。
そのまま、ピアノフロアに案内され、ピアノの前に座らされた。
ヴァイオリンを持った女子高生は、宮崎由紀子と名乗った。(音大志望とも)
様々、楽譜が渡されるなか、祐と宮崎由紀子が選んだ曲は、モーツァルトのヴァイオリンソナタ。

曲の開始とともに、華やぐモーツァルトの世界が広がった。
あっという間に、100人を越える人が集まった。(ますます増えていく雰囲気)
スマホで撮影している人も多い。
「可愛い男の子と、女子高生のキラキラモーツァルト」
「あの二人は、恋仲?息が合ってる」
「うん、いい感じ」
「本物のステージで聴きたい」

途中で、祐に気がついた人もいる。
「もしかして、あの男の子は祐君?ジュリアと演奏する子」
「うわ・・・生祐君だ・・・美味しそう・・・」
「そんなこと言っていないで、モーツァルト聴きなさい、これはいい!」

いろんな反応の中、聴衆はますます、増えていくようだ。
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