第212話別室では祐君の昔話など 奥様の心配

文字数 1,104文字

私、純子と真由美さんは、別室にいる。
それは、秋山先生が「祐君と二人だけで話したい」と仰せられたから。
おそらく、かなり「コアな話」になるので、素人に近い私たちでは、ついていけないし、余計な邪魔もできない。

それでも、秋山先生の朗らかな笑い声が聞こえて来て、安心する。(祐君の声は小さいので、聞こえない)

奥様も、時々様子を見ては帰って来る。
「秋山は、若い恋人を前に、赤い顔です」
「久しぶりに、あんな大きな声で笑っています」

祐君と、かつての内弟子の日村さんとの話も教えてくれた。
「祐君は、日村さんとも仲良しなの」
「お母様の彰子先生が、祐君の子守を日村さんに託したこともあったかな」
「秋山と彰子先生が、作業に入ると長いし、祐君は待つだけになるからね」

真由美さん
「子供の頃の祐君ですよね、どんな感じでした?」

奥様
「それはもう、お人形さんが動いている感じよ」
「みんなに可愛がられてねえ・・・」
「出版社の人も、大学の先生にもね」
「特に日村さんは、祐君が来ると、もうご機嫌」
「一緒にデートするの、吉祥寺とか、井の頭公園とか」
「あまり遠くには行かないの、祐君は、時々風邪引いたり、おなか壊すから」

私も、少しずつわかって来た。
「お孫さんみたいな、感じですね」

奥様は、うれしそうな顔。
「そうねえ・・・孫ね・・・うん」
「よく抱っこしたもの」

そんな話をしながら、お昼は稲荷寿司を作った。
関東風なので、俵型。
味付けも、関西とは違って濃い目。

二人だけの話を終えた秋山先生と祐君も、リビングに来て一緒に食べる。

秋山先生は、ニコニコ。
「ああ、お嬢さん方、ごめんなさいね、愛しの祐君を独占しましたよ」
「お蔭様で、無事に講演もできそうです」
「素晴らしい原稿、そして稲荷寿司まで、ありがとう」

祐君は、ふんわりと笑う。
「稲荷寿司も、これくらいに味が濃いほうが好き」
「本音を言うと、母さんのより、奥様の稲荷のほうが美味しい」

奥様は、突然、ホロッと来たようで、ハンカチを目に当てる。

秋山先生は、奥様にやさしい目。
「家内は、祐君とお嬢様方が来てくれることを、ずっと楽しみにしていて」
「今日は、興奮気味かな」

お昼も終わり、お茶を飲んで私たちは秋山先生の家を辞した。
(祐君から、長居はあまりよくない、聞いていたから)

それでも、家を出る時に、奥様と握手。
「祐君をお願いします」
「時々、根を詰めて、身体壊すの」
「それが心配で」

私も真由美さんも、それはよくわかっている。
「まかせてください」
私と、真由美さんは返事が同時。

それでも祐君は、反発した。
「あの時は、たまたま」

しかし、奥様と私、真由美さんは、同時に首を横に振った。
秋山先生は、そんな私たちを見て、苦笑している。
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