第41話祐の夢(2)

文字数 643文字

「ごめんなさい」
祐は、それだけを言うのが限界。

「声の主」が「誰か」なんて、気にする余裕が全くない。
とにかく息が苦しくて、床に転がってゼイゼイとするばかり。

「大変でしたね」
再び、おだやかで、しかも愛らしい声が、祐の耳に聞こえて来た。

「あ・・・はい・・・」
「・・・怖くて・・・」
祐はようやく声を出す。

「ここで見ています」
「楽になるまで、お休みになって」
おだやかで愛らしい声が、祐の緊張した身体と心に響く。

「ありがとうございます」
祐は、まだ顔を上げられない。
ただ、かけられる声が、心地よい、それだけ。
可愛らしい声と思うけれど、そのまま、身も心も委ねたいと思うほど、安心する。

「時が解決します」
「ご心配なさらず」
「人の心には、善も悪も、あるいは理屈では説明できない思いも、実に様々なのです」
「わたしは、そんな思いをずっと見て来ました」

「はい」
祐は、この「声」に任せれば大丈夫、そんな気持ちが強くなって来た。
ようやく顔を「声の主」に向けた。


本当に驚いた。


「あなたは・・・」

祐が奈良で一番好きな、東大寺四月堂の十一面観音が、自分の前に立っている。

「そんなに驚かないで」
十一面観音の腕が伸びた。

祐は自分の頭に、十一面観音の手のひらが触れた、と感じた。
「ありがとうございます」
少しひんやりとして、すごく心地よい。

「眠っていいよ」
祐は、身体が抱きかかえられるような感覚。
おそらく、十一面観音の腕の中、と思った。

「とにかく休んで」

「ありがとうございます」
祐は、意識が遠くなる感じ。
そのまま、眠ってしまった。
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