第43話母からの気になる祐君情報は、やはり中途半端だ。

文字数 1,057文字

「そもそもね、酷い痩せ方をして、フラフラと歩いて、お饅頭一つだけ」
(私は、その母の言い方で、メチャ不安になった)

「うん・・・それで?」

「そしたら祐君、顔を下に向けて、ごめんなさい・・・って」
「大丈夫・・・って、店を出て行こうとするの」
「しかも、炎天下だよ」
(私の母は、人情深い性質・・・おせっかい焼きだ)
「だから、お店で食べて行く?って声をかけたの、冷たい麦茶も出しますと」
(我が母ながら、その対応はうれしかった!)

「祐君は、どうしたの?」

「祐君ね、ありがとうございます、助かりますって」
「やつれていたけれど、可愛いし・・・」
「うん、なまめかしい男の子の魅力もあったな」
(それは余計だ!だからミーハー母は困る)

「祐君は、お店で休んで行ったの?」

「うん、少し話をしたよ」
「何でも、長谷寺さんに行って来たとか」
「それで疲れもあったみたい」
(炎天下で長谷寺に行けば、それは疲れる)

「私、聞いたの」
「一人で観光?」
「いつまで奈良にいるの?って」
「とても一泊とは思えなかったから」
(これも我が母らしい、実に根掘り葉掘りだ)

「うん」(さっさと結論を聞きたい!)

「そしたら、8月の末まで奈良にいますって」
「理由があって、ホテル住まいとも」
「聞いた日が7月の20日過ぎ、梅雨明けぐらいの暑い日」
「だから、驚いちゃったの」

「うん・・・」
「それで、どうして?」(だから、その理由を聞いて欲しいんだけど)

「祐君は、言わなかった」
「お饅頭食べて、麦茶ありがとうございましたって、そのまま店を出て行った」
(根掘り葉掘りも、役に立たない、実に中途半端だ)

「はぁ・・・」

「何か、悩んでいるとか、苦しんでいる雰囲気もあったな」
「そうでなければ、あの暑い日に長谷寺なんて行かないもの」
「祐君は源氏物語とか、枕草子とか、古今の話を少ししていたけれど」
「その顔が沈んでいたし、行って喜んだって感じでもなく」

「何だろうね・・・本当に・・・」(私は、実に気になる)

「その後、何回か、奈良女の先生と歩いていたのを見たよ」
※奈良女:奈良女子大学。(名門です!)

「・・・その先生、男?女?」(これこそ、気になる!)

「若い女の先生、確か万葉集の先生で、吉村先生」

「それ、マジ?」(私の声が強くなる)

しかし、母との気になる会話は、突然の中断となった。
あの無神経な親父の声が電話に交じって聞こえて来た。

すると、母も、私には無神経に変化した。
「はーい、じゃ、またね」と電話を切ってしまった。

まあ、「長電話をたしなめられた」ことと、「店を開け」とでも、言われたと理解した。
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