第157話吉村里奈の祐への思い①

文字数 976文字

私、吉村里奈は、28歳。万葉集の研究者で、祐君の母森田彰子先生の弟子である。
3年前から奈良に住み、奈良女子大の講師の職に就いている。(森田彰子先生のありがたい推薦による)

祐君とは、10年前(祐が8歳の頃)、彰子先生の家で見た時から仲良しだった。(一目惚れかも)
祐君は、とにかく「お人形さんみたいな可愛い男の子」で「頭が切れる」「やさしい心遣いができる」「お姉さんは活発過ぎて、祐君は苦手」「写真も上手、お父さんの哲夫さんも教えているみたい」が、会った当時の印象だった。

その後も親しくお付き合い、二人きりでデート(映画とか、街歩き)をしたこともあった。(一年に何度も)
(とにかく可愛いので、一緒に歩くことがうれしかった)
(祐君は、話を合わせるのも上手、聞き上手だ)
(失恋を見抜かれたこともあった・・・大丈夫?って・・・子供のくせに)
(でも、実は失恋の痛みから逃げて、祐君と歩いたこともある)

祐君が中学、高校と進学する時は、心配になった。
「祐君、すぐに風邪を引くから、心配だ」
「それで受験失敗したら・・・祐君・・・シュンとなって・・・泣くかな」
そんな心配で、祐君の受験の時期は、自分が眠れなくなった。
祐君から「合格しました」の連絡の時は、自分が泣いた。(祐君が話に困るほどだった)

そして、去年の夏だった。
彰子先生が、思いつめた声で、相談を掛けて来た。
「ごめんなさい、里奈さん」
「祐が・・・危ない、変なことに巻き込まれて」
「祐を奈良のホテルに預けることにしたの、私も哲夫さんも支配人とも懇意で」
「わかりましたと、受けてくれて」
「ただ、奈良にも誰か大人の知人をと・・・お願いできるかな」

私、里奈は、その理由を聞いて本当に悔しいし、泣きたいくらいに祐君が心配になった。
「ストーカーですか?学校も警察も何もしてくれない?」
「祐君が胃潰瘍になった、近所の証言もあるのに?」
保証人のようなお願いは、断る理由がなかった。
「はい!やらせてください!祐君なら、こちらからお願いしたいくらいです」(本音だった)

そんな話がまとまり、祐君とは去年の7月18日の午前11時に近鉄奈良駅の改札で待ち合わせ。

私は、ドキドキしながら祐君を待った。(30分前から・・・逢いたくて仕方がなかった)

祐君は約束の時間通りに姿を見せた。

・・・足が震えた。

祐君・・・顔が蒼いし・・・顔に肉がない・・・
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