第346話祐と女子たちの浅草散歩(1)

文字数 1,274文字

連休初日、祐と女子たちの作業(古今和歌集現代語訳)は、順調に進んだ。
作業は午後4時までと全員で決めたので、凝り性の祐も、真面目に時間を合わせた。
息抜きのための浅草歩きも、和気あいあいの中、アパートを出発。
地方出身者(東京初心者ばかり)ではあったけれど、無事に迷わず浅草駅に到着した。

・・・まではよかった。

「即、仲見世散歩」を楽しみにしていた女子たちに、祐は違う場所に先に行きたいと言い出したのである。

「ここから隅田川を渡って、15分ぐらい歩く、先に行きたい」
春奈は例によって怖い顔。
「え?マジ?往復30分も歩くよ」
純子は、祐が春奈に引いていることを見抜いた。
「何のお店?それを先に」
他の女子たちも注目する中、祐は、注目されると、やはりタドタドしい。
「えっと・・・団子屋さん」(地方出身女子たちは、はぁ?)

その中で都内出身(調布)の春奈が、祐の気持ちを察した。
「うん、わかった、行こう」と、グイッと祐の腕を組んで引きずるように歩き出す。

他の女子たちは、焦った。
純子
「ねえ、春奈さん、祐君が怯えている」
真由美
「密着し過ぎ、抜け駆け禁止条約違反では?」
朱里
「100歩交代にしましょう、仕方ない」

騒ぐだけの女子たちに、ようやく祐が説明を開始した。
(やや息切れ、春奈の密着が強い)
「名にしほば いざ言とはむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」
「覚えているはず」
純子
「業平様だよね、超有名な」
真由美が訳(祐の訳を覚えていた)
「都鳥と名付けられた鳥であるならば、それでは、聞いてみよう。
私の想い人は、都で元気でいるかいないのかを」
朱里が、ハッと気が付いた。
「え・・・もしかして、その言問団子?かの有名な老舗団子屋さん?」

春奈は、そこで祐にお説教。
「最初から言わないから混乱するの」(祐は、うん、とショボン気味)

そんな珍問答道中を続けながら、一行は下町風情も楽しむ。
純子
「懐かしい感じやな、昭和みたい」
朱里
「このほうが落ち着くかな、空気もいい感じ」
真由美
「同じ東京でも、いろいろだね」
春奈
「業平様の時代は、この辺は何もなかったのかな」
「それで都鳥の名前を聞いて面白がって、歌を詠んだ」

一行は団子屋に入り、団子を賞味していると、祐は、また興味を持たせるようなことを言い始めた。
「ここは向島と言って、百花園、露伴公園、白髭神社いろいろある」
「なかなか風情もあって好き」
春奈は、その東京知識に驚く。
「どうして、そこまで?」
祐は、下を向く。
「高校時代、家にいられない時期があって、東京とか奈良に逃げた」

純子が、祐にそっと確認。
「例のストーカーの女の子から?」(祐は、頷いた)
事情を知らない女子もいるので、純子が簡単に説明すると、全員がムッとした顔。

春奈
「張り倒したい、そういう子って」
真由美
「追いかけてきて、祐君が振り向けば隠れる?声をかければ逃げる?異常者だよ」
朱里
「警察の知らんぷりも、酷いよね、被害がないと動かないなんて」

そんな話はあったものの、祐と女子たちのチームワークは良好。
仲良く、店を出て歩きだす。
いつの間にか、話題は、老舗のメガ餡蜜に切り替わっている。
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