第26話美咲と祐のデート(2)

文字数 1,419文字

私、美咲にとって、本当に夢のような至福のデートが始まった。
東京堂書店の次は、靖国通り沿いの、日本文学専門の古書店に。
祐さんが、そのまま二階にのぼったので(一階も凄まじい蔵書!でも近代文学系らしい)私ものぼった。

祐さんは、照れたような顔(これもメチャ可愛い、待ち受けにしたいほど)。
「源氏の評論文が多いので、どれか買おうかな」
でも、祐さんは、たくさんあっても全く迷わない。
さっと「源氏物語 湖月抄」というマニアックな本を買う。

そこで・・・私も実は古文ファン。
二階を少し歩いてみて、実に迷った。
万葉集から古今、新古今、源氏も枕も、方丈記も徒然草も、欲しい本だらけではないか!
その迷いの世界の私に祐さんがそっと寄り添った。(・・・私は胸が苦しくなった!顔も真っ赤と思う)
祐さんはやさしい声。
「こういう店に来る時は、ある程度目的を決めて来たほうがいいですね」
私は、「あ・・・そんな感じで・・・あれこれ欲しくて」
お値段も、3,500円の本が1,500円とか、それ以下ばかりなので、また、実に迷わせる!
それでも私は決めた。
「式子内親王の和歌」の本を二冊。(安かった、計1,000円を少し超えた程度)
それに祐さんも、面白そうな顔。
「いい趣味されていますね、お買い物も上手」(わ!ほめられちゃった!)

古書店の次はお食事。
神保町は学生街、サラリーマン街でもあるので、あまりお洒落な店はない。
祐さんは気をつかったのか(そんなことはしなくてもいいけれど)、お洒落なイタリアンを見つけてくれた。
祐さんは、決めるのが、実に早かった。
「僕は、シーフードのリゾットと紅茶」
私は、また迷いそうになったけれど、頑張った。
「シーフードのピザと紅茶」
・・・美味しかったけれど、特に祐さんの食べ方が実にきれい。
スプーンの持ち方、置き方、紅茶の飲み方が、絵になる。(私のムシャムシャ食べが恥ずかしい・・・)

イタリアンの次は、古書店街を二人でブラブラ。
店頭のワゴンに入った本を見る。
祐さん
「漱石が・・・三冊500円?」

「啄木が・・・100円」

それも面白かったけれど、感激したのは靖国通りを越えて、シックで落ち着いた喫茶店に入ってから。

祐さんは「源氏物語 湖月抄」を手に取り、うれしそうな顔。
「これ・・・ずっと欲しくて、でも、ためらっていて」

私は、思わず突っ込んだ。
「祐さんほどの人が、それほどに?」(難しそうな本なので、私には読めそうにはないけれど)

祐さんは、また恥ずかしそうな顔。
「源氏は、筋だけでなくて、いろいろ考えないとわからないし」
「・・・考えても、まだわからないこともあって」

私は祐さんの考えていることは、わからない。
「紫の上が好きです」と言う程度。

祐さんは、「うん」と頷いた。
「紫の上は・・・いろいろあるけれど・・・世間の評判は高く」
「でも、源氏の正妻にはなれなかった」

私は「え?」と意味不明(ずっと一緒に暮らしたでしょ?と思う。

祐さんの説明は、まさに「納得」だった。
「光源氏が親の同意も無く拉致連行しただけ、だから結婚式もあげていない」

私が、「はぁ・・・可哀想」とつぶやくと、祐さんが窓の外を見た。
「紫式部が、何故、そんなキャラを考えたのかなと思うとね、考えてしまうことがあります」

そこで私は思った。
「この祐さん・・・可愛くてやさしいだけでない」
「もっともっと・・・深い話が出来る人・・・したくなる人」

また、手を握りたくなって来たけれど、恥ずかしくて手を伸ばせない。
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