第155話祐君の苦労がわかった・・・マジに

文字数 1,624文字

私、真由美は、純子さんから電話をもらって驚いたし、うれしかった。(純子さんは、不思議な人、恋敵!と思うけれど、全く憎めない)(大らかな包容力、それがある)(私は、突っ走りたいタイプ・・・都内では、まだイマイチだけど)

その純子さんが、ちらっと言ったことも気になった。
「祐君、今日、大学の講義の前に、アイドルみたいな超美少女から声をかけられたの、名前を呼ばれて、お茶しましょうとまで」
「それでね、祐君は、全く無関心なの、相手は気があるらしいけれど・・・どうでもいい、って感じで・・・そこまで冷たい子でもないけどね」
(マジに聞き捨てならん!純子さんにしっかり見張ってもらわんといかんばい!)

大学からは、直帰。(千歳烏山から、小走りだ!)
そのまま祐君の部屋に入る。(鍵は・・・祐君が、OKしたから、純子さんも私も合鍵を持っている、うん、公平だ・・・アヤシイ気持ちは・・・ノーコメント)
で、親子丼もサラダも味噌汁も、すぐにできるので、「例の秋山先生からの原稿」と祐君の「第一次講演用原稿」を読み比べる。

純子さんは、大混乱した顔。
「秋山先生の原稿って・・・無理・・・」
「数行で、頭がグチャグチャになる」
「私、手に持ちたくない」

私も、数行読んで「あーーー無理・・・・」と原稿を投げたくなった。
(朱雀院のとりとめもない長い話を、全部書いてあるのだから)
(確かに大事な部分ではあるけれど、これだと、講演の冒頭から、聴衆は眠りの世界だ)(その後も、超難解、回りくどい言葉が続く)(いったい、何が言いたいの?全く理解不能な言葉が続く)

祐君は苦笑した。
「紫式部独特の、いつ終わるかわからない長文、しかも、その長文のあちこちで文意を補わないと、文そのものが成立しない」
「秋山先生の講演だから、人も集まる、人も聴く姿勢を・・・」
「一応は見せるけれど」
少し間があった。
「秋山先生も、苦労されている、聴衆の居眠りを心苦しく感じていると思うんです」
「だから、何とかしてあげたいなあと思って」

私は、秋山先生の原稿は諦めて、祐君の「第一次原稿」を読む。
そして、驚いた。
「・・・読みやすい」
「朱雀院の長い言い回しを細かめに切って、少し解説を加えて」
「うんうん、これなら聞いていられる」

純子さん
「若菜上は長大」
「一回の講演では無理かな、と思うよ」
「祐君もかなり苦労しとる。ようわかる」
「よく・・・ここまで仕上げたなと」
「私なら、無理、諦める、難し過ぎ」(私も無理、紫式部が悪い!と思うけれど、今さら・・・なのだ)

祐君は、また苦笑。
「最低でも3回くらいに分けて」
「朱雀院と女三宮、そして源氏への降嫁が決まるまで」
「源氏の四十の賀、女三宮の降嫁の実現、その後の紫の上の苦しみ」
「明石の女御の男皇子の出産。六条院での蹴鞠、それから女三宮の失敗と柏木」
「講演時間の制約もある・・・下手に程度の低い質問を受けると、先生でも困る場合もあるかな」

私は、祐君の「気苦労」を感じた。
それと秋山先生の原稿では、絶対に講演には使えないことも理解した。
「祐君、秋山先生に最初に言っていたよね、話し言葉と書き言葉と違うって」
「でも、この違いは、半端じゃないよ」

純子さんも頷く。
「祐君が余裕がないって言っていたことが、わかった」
「これなら、簡単にお茶しましょうって言えない」
「気持ちがスッキリせんよ、これをまとめんと」
「大事業や、ごめんね、変な心配して」

祐君は、神妙な顔。
「もっと実力があれば、楽々書けると思うけれど」
「それが情けない」
「筋とか、その筋の背景は、いろいろ考えていたけれど」
「まさか、講演原稿にまとめるなんて、考えたこともなかった」

少し滞った雰囲気を変えたのは、純子さんだった。
「まずは、親子丼」
「真由美さん、サラダとお味噌汁をお願い」

「はい!」
私も、純子さんの前向きの気持ちがうれしかった。

祐君は、「ありがとう、僕も何か」と言った。

すかさず、私。
「じゃあ、お茶をお願い!」

純子さんは、プッと吹いている。
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