第166話伊東の別荘にて④祐の気持ちと、過去の自己批判

文字数 1,334文字

祐も、露天風呂に入っていた。
そして、いろいろ、考える。
祐自身、「自分の気分転換以上に、怪我の時のお礼と、都内転居以来、お世話になっているお礼」の意味も含めての「今回の別荘への誘い」だった。
幸い、純子さんも、真由美さんも二つ返事で誘いに乗ってくれたので、うれしく思う。
ただし、「彼女とか何とか」は、まだ考える時期ではない、と思っている。
何しろ都内の大学に進学したばかり、アルバイトの話も決まったばかり。
それぞれに、新しい出会いもあるだろうし、「今は好感を持ってくれていたとしても、その後まで、拘束するべきではない」それを思う理性と自制はあるし、持ち続けねば、と思っている。

「下手でも何でも、楽器を弾く」
「ホストとしての役目を果たさないと」
祐は、義務のように、それを考えている。
ただ、完璧にこなそうと思っても、しっかりとした自信があるわけではない。
その意味で、「強力な援軍」の恵美と芳江叔母さんには感謝している。
「とても女性の話には、一歩遅れるどころか、ついていけない」それも、しっかり自覚している。

子供の頃から、身体は弱いほうだった。
風邪を引く、おなかを壊す、は本当に多かった。
「健康だけが取り柄」の姉瞳には、その弱さを、いつも叱られた。
「男の子のくせに!弱虫!」
「何で熱を出すの?どうして、おなかを抑えているの?」
「寝てばかりいないの!恥ずかしい!」

「そんなこと言っても」
起きる力がないから起きられない・・・でも、それを言っても姉瞳には通用しない。

姉瞳は、看病は苦手だった。
父や母に頼まれていても、「自分が遊びたい欲求」の方が強かった。
だから、祐が寝込んでいても、付き添うのは、ほんの20分くらい。
「友達が何とか」と言っては、すぐに姿を消した。

祐は、そんな姉を憎む気持ちはない。
「いいや、姉ちゃんだけが生き残れば」
「こんな苦しい思いばかりで、生きていてもしかたがない」
実際、病弱だった子供の頃は、そればかりを考えていた。

それでも、小学校の高学年から、あまり病気はしなくなった。
足が速いらしく、リレーの選手に選ばれたりもした。
中学では、障害物競走の選手で、県大会出場の資格までは得た。
部活の監督からは、「三位以内は確実」と言われて、自分でも練習に励んだ。

「でも・・・直前に倒れた」
「部活のみんなに迷惑をかけた」
「父さんや母さんも、みんなに謝っていた」

熱中症だった。

監督からは、「熱心に練習をしていました、し過ぎで・・・私の監督不行き届きです」と謝られた。

病院に部活の仲間がお見舞いに来た。
謝った。
「ごめんなさい・・・弱くて」

「倒れたのは祐君だけじゃない、そんなに謝らないで、また走ってよ」
「祐君の走る姿が好き、だから戻って来て」

しかし、祐は決めていた。
「僕は、もう走らない」
「罪深いと思う、みんなに迷惑をかけた」
「その責任を取ります」
自分で決めた通り、退院後すぐに退部届を出した。
監督は、「祐君、君だけの責任ではない」と、苦しそうな顔。
泣き出す仲間もいた。
でも、期待された本番直前に倒れた罪、そしてその罰は、自ら引き受けるのが当然と思っていた。

そんな嫌なことを思い出していると、隣の女子風呂では、大騒ぎ、大笑いになっている。

祐は、先に風呂から出て着替え、食堂に向かった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み