第274話ライブバーで超大物たちとジャズ ジャンの高評価

文字数 1,306文字

祐たちがライブバーに入って行くと、既に、ジャン(Tフィル常任指揮者)、ジュリア、村越(祐のピアノの先輩)が店内にいた。
ジュリアは、小走りに祐の前に来て、強めのハグ。(純子と田中朱里の目が泳いだ)
村越は、ジュリアと祐を見て苦笑。
「2階に防音室があるから、そこで少し合わせよう」

防音室に入って、打ち合わせと音合わせ。
祐は、緊張はしていない様子。
曲は、「処女航海」「モーニン」「いつか王子様が」の3曲。
最初の出だしだけを、全員で確認、音合わせして、1階のステージに出た。

マスターが司会。
「本日は・・・ありがとうございます」
「既に、満員ということで、店主としては、うれしい限り」
「さて、本日はTフィルの常任指揮者のジャン、それからヴァイオリンのジュリア」
「ピアノコンクール優勝者村越君」
「それから、人気者の祐君・・・今日はフルートです」
「曲は、3曲、ブルーノート風に・・・」

マスターが司会をしている間、祐は落ち着いて客席を見ていた。
純子、田中朱里に加えて、真由美、風岡春奈と平井先生の顏も見えた。(おそらく純子か真由美が連絡した、と予想はついた)
驚いたのは、桜田愛奈が端に座っていること。(大きな帽子とサングラス、マスクで正体を隠している)

演奏そのものは、しやすかった。
全員が「合わせ」が上手。
祐のフルートも、鳴り始めた。(正直、朝練では不安だったけれど)
久しぶりのジャズだったけれど、違和感も戸惑いもなかった。
「目と音とブレスで会話する感覚」を、祐自身、楽しんだ。
ニュアンスを変えて(重くしたり、軽くしたり)吹くと、全員が、すぐに察して合わせてくれた。(もちろん、祐も相手の変化に合わせた)
疲れは、不思議に感じなかった。
客の大きな拍手も、快感だった。

3曲目の終わりごろ、客席に杉田香織が座っているのに気がついた。
でも、不快感を演奏に出すわけにはいかない。
「クールに」と決めて、吹き通した。

全部の曲が終わって、大喝采。
聴衆にお辞儀をしてから、祐は、演奏者全員と握手。
ジュリアからは、強めのハグが来た。
「祐!楽しかった!」
「また、やろうよ!今度はボサノバがいい」
祐は、素直に応じた。
「フルートでもピアノでも」

ジャンは、祐を気に入ってしまったようだ。
「面白いねえ、哲夫ジュニアと思ったけれど」
「祐自身が、アーティストだよ」
「今度、ピアノも聴きたい」

先輩の村越が、祐の背中を押した。
「祐君は、僕より室内楽に向いているかな」
祐は苦笑した。
「このライブバー限定です、他にもいろいろあって」
ジャンは、祐に、ウィンク。
「ピアノ聴きたいなあ」

ジュリアが、サッと動いて、祐にモーツァルトの楽譜を渡す。

すると、祐とジュリアの演奏を知る客が見ていて、大きな拍手。
祐は、断れなかった。
そのままピアノの前に座わり、前奏を弾き出した。
ブルーノートの渋くてクールな世界とは一変。
典雅な花満開のモーツァルトの世界が広がった。

これには、ジャンも村越も笑顔。
ジャン
「いいねえ・・・この子」
村越
「はい、自慢の後輩です、上手だけど、ジェラシーを感じない」
「聴いてしまうんです、彼の音楽って」

杉田香織は、そんな祐との「格差」が本当にショックらしく下を向いている。
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