第76話私、菊池真由美はめげない。

文字数 763文字

祐君の手を握り、トロトロフワフワ状態の、私、菊池真由美の心と身体は、実にあっさりと通常運転に戻されてしまった。

それは、祐君のスマホが鳴ったことが発端だ。(このいい時に!)
こともあろうに、祐君は、するっと私の手から逃れ(ほう!と思うほど上手で嫌みがなかったけれど)、スマホで会話を始めた。

「あ、秋山先生ですか?今日はありがとうございました」
「はい、若菜上ですね」
「僕なりに考えをまとめておきます」
「あーーー!はい、玉鬘と長谷寺もですか?」
「わかりました、去年の夏に歩きました」

聞いている私は、「うん?」「若菜上は・・源氏?」「玉鬘と長谷寺?」
「うーん・・・長谷寺はともかく、玉鬘は筑紫に深い縁があるぞ」
「でも、長谷寺の話に移っているし」・・・で、完全取り残され状態。

そのうえ、とんでもないことが起こった。
なんと、祐君は、「お話再開」を待ち焦がれる私に、ぺこりと頭を下げ(それも可愛かったけれど)、スタスタと自分の部屋に入ってしまったのである。

「仕方ない、最初から、しつこいと嫌われるし」
「今日は、追わない」
「でも、祐君、何かやることがあるみたい」
「邪魔もできないし」

しょぼんと、自分の部屋に戻りながら、私は思った。
「こんなことで、負けんばい!」
「博多の女は、好きになったら、命がけ」

それでも、私は、頭を働かせた。
「源氏物語の話だったはず」
「秋山先生ねえ・・・それはともかく」
「私も、源氏を読もうかな」

私は、そう思ったら、後には引けないタイプ。

再び、アパートの部屋を出て、商店街に向かって歩き出す、いや、途中から「駆け足」になった。

「どうして駆け足?」

そんなことは決まっている。
「源氏物語全巻を、本屋で買って読む」
「そして、祐君の親密な話し相手になる!」

そう思った時点で、私の心には「祐君とのバラ色の未来」が開けているのであった。
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