第40話祐の夢(1)

文字数 901文字

祐は、風呂から出た後、再び頭がクラクラとなった。
「風呂につかり過ぎたかな」と思ったけれど、今さら仕方がない。
倒れ込むように、ベッドに横になった。

「眠いや」

すぐに天井が見えなくなり、祐はそのまま眠ってしまった。




「お宅の祐って子が悪いんです!」
中年の女性の金切り声が聞こえて来た。
いつも後をつけて来る女の子の母と、すぐにわかった。

「そんなことを言われましても」
母は落ち着いた声。
「お宅の娘さんと話をしたこともない、お名前も知らないとか」



「いえ!それが薄情な、冷たい態度って言っているんです!」
「私の娘とお付き合いもお話もしてくれないって、どういうことです?」
「私の娘が、もう、毎日泣いて、勉強も手につかず」
「これで受験を失敗したら、お宅の息子さんの責任です!」
後をつけて来る女の子の母の金切り声は、ますますエスカレート。


「それなら、お宅の娘さんのほうから、祐に声をかけたらどうです?」
「後ばかりつけて、振り返れば隠れるとか」
「祐も気味悪がっていました」
母も引かない。


「何を言っているんです?無神経な!」
「声を掛けられない、繊細な気持ちを察して、お宅の息子さんから声をかけるのが当然でしょ?」
「あー――!もう、そういう教育だから!」
後をつけて来る女の子の母は、テーブルをドンと叩く。


「いずれにせよ、祐は会わせられません」
「警察と相談して、後をつけられない場所で、療養しています」
「祐も、後をつけられていることに困って、胃潰瘍に、酷く痩せました」
母は強く言い切った。

「え?何です?」
「そこまで、私の娘を避ける?」
「馬鹿にしているんですか?」
「本当に人間味のない・・・悪魔のような母と息子で」
後をつけて来る女の子の母は、また怒った。


「もう・・・嫌だ・・・」
祐は、「夢の中」とわかっていた。

「助けて・・・」

必死に、後をつけて来る女の子から逃げ続けた。


古い小さなお堂が見えて来た。
祐が近づくと、そのお堂の扉が、さっと開かれた。

「こちらに」
おだやかで、しかも愛らしい声が「聞こえたような気」がした。

祐は、「はい!」と飛び込んだ。

「もう、大丈夫です」

さっきと同じ声が聞こえた。

お堂の扉は、その声と同時に、閉じられている。
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