第68話祐は神田やぶ蕎麦に入る

文字数 844文字

「左に行けば秋葉原、右に行けば御茶ノ水かな」

祐は上野からの道を歩きながら、少し迷った。
「オタク文化には興味が無い」
「でも、お茶の水は、この前に行ったばかり」

時計を見ると、昼が近い。
思い出したのが、子供の頃、父に連れられて入った、神田のやぶ蕎麦。
「ここから近い」
「たまには、江戸蕎麦もいいかなあ、そんなに重くない」
「江戸に出て、江戸蕎麦を食べていない、と言うのも恥ずかしい話だ」

そう思うと、祐は迷わない。
道もある程度わかるので、苦労することなく、神田のやぶ蕎麦に着いた。

少し行列に並んだけれど、祐は楽し気に店内を見る。

「うわ・・・懐かしいなあ」
「注文の声を伸ばす独特の感じ」
「老舗でありながら、全く気取りが無い」
「これが、江戸の粋かな」

席に案内され、「せいろうそば」を注文。

「まずは、江戸蕎麦のシンプルを味わう」
「天ぷらとか、玉子とじは、次回以降に」

出て来るのも早かった。
「やはり、美味しい」
「蕎麦にもツユにも、切れと品がある」
「この味は、日本人として忘れたくないな」

店内を再び見ると、サラリーマンが多い。
やはり忙しいのか、さっと食べて、さっと席を立つ。

「これも、江戸かな」
「蕎麦なんて、昼飯なんて、モタモタ食べるもんじゃない」
「スッキリサッパリして、いい感じだ」

祐も、せいろうそばを、あっさりと食べ終えて、お勘定。
「ありがとうございました」と女性店員に言われたので、祐も「本当に美味しかった、こちらこそありがとうございました」と言い、そのまま店を出る。

「これが京都なら・・・こうはいかない」
やぶ蕎麦を出て、祐は京都を思った。

「老舗に入れば、まず、店が客をジロジロ」
「店が客を値踏み」
「それで、態度を決める」
「儲かる客には丁寧に」
「どうでもいい客は、早く帰ってもらいたいような素っ気ない接客」

祐は、そこまで考えて、京都を考えることをやめた。

「ここは江戸だ」
「江戸を楽しもう」

祐の頭に浮かんだのは、隅田川。
「深川か、佃でも行くかな」

そう決めると、祐の足は速い。
地下鉄の駅を探して、歩き出した。
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