第208話演奏後の祐  演奏より姉瞳の恋情報に不安

文字数 1,196文字

祐が今回のライブ演奏を受けた理由は、三つある。
一つは、父哲夫から、「俺も母さんも、芳江さんも関係が深い、弾いてやってくれ」と頼まれたこと。(まさか聴きに来るとは、予想外だったけれど)
二つ目は、ジュリアの懇願。「おねがーい!」とスマホで連発され、断りづらくなってしまった。(つまり、押されてしまった)
三つ目は、祐自身が気分転換をしたかった。(純子と真由美に話をしたのは、アルバイト仲間であって、お隣さんであったから)(風岡春奈は想定外、田中朱里には関心がない)

演奏そのものは、あまり納得できていない。(自己採点では55点程度)
少し緊張してしまったことと、途中までジュリアに合わせるのに必死だった。
モーツァルトの二楽章から、ジュリアが煽って来た。
だから、少し本気を出した。
後は、流れのままに三楽章に進んだ。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、少しゆったり目に、リズムとアクセントを厳しめにした。(そのほうが、曲のドラマチック性が際立つと思ったから)
ジュリアの目が輝き、頬も紅潮したのは、うれしかった。(感づいてくれた、と思った)
曲のゆるやかな部分では、甘めなピアノの音にした。
曲の激しい部分と変化を大きくつけたかったから。
ジュリアも乗って来る感じで、祐自身楽しかった。

演奏が終わって、大きな拍手はうれしかった。
ジュリアからのハグは、きつくて、実は背中まで痛かった。

ただ、祐が心を動かされたのは、ジュリアとの演奏ではなくて、父哲夫からの情報だった。
「瞳が、恋をしているらしいぞ」
「母さん情報で、毎日電話しているらしい」
「少し、恋煩い系かな」

「マジ?」
祐は、動揺した。

内心、思った。
「相手に迷惑では?」
「姉さんの性格は、変だから」

また、こうも思う。
「鬼の霍乱では?」
「あの体育会系、パワー信仰しかない姉さんだ」
「恋に弱る要素はない」

そして、思った。
「どうせ、フラれるに違いない」
「スタイルと顔は、きれいだけど」
「あの性格が酷過ぎる」
「彼氏とレストランに入って、食べまくって、呆れられるとか」
「大口開けて笑うし、恥じらいにも欠ける」

不安も芽生えて来た。
「こっぴどくフラれて・・・夜中に長電話されても、迷惑だ」
「下手をすれば、泊りに来るかも」
「それされると、面倒だなあ」
「また掛け布団取られて、風邪を引く」

ライブバーの帰り道、考え込んでいたら、純子と真由美が、祐に聞いて来た。
純子
「疲れたの?」
真由美
「早く寝ようね」

祐は「うん」と頷くのみ。
まさか、「姉瞳の恋愛不安」など言っても仕方がない。

千歳烏山について、コンビニに入った。
どうしても、甘い物が食べたくなってしまった。
買ったのは、昔懐かしい「マーブルチョコレート」。

純子はニコニコ。
「うちも、これ好き」
真由美
「私も買う」

祐は選んだ理由を言う。
「僕が買うと、姉さんが、80%は食べる」
「たまには、全部食べたいなあと」

純子と真由美は、プッと吹いている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み