第334話ジュリアの愛

文字数 1,445文字

私、ジュリアは、祐の顏が見えた途端、祐が近づくのを待ってなどいない。
祐にダッシュして、思い切りハグした。(祐の肉体を自分の身体で感じたかった)
(純子、朱里が固まっているけれど、どうでもいい)

とにかく、病院で寝ていて、意識がない祐を見るのが辛かった。
弟フィリップを亡くして、その上祐まで・・・と思ったら、全く眠れなくなった。
懸命に、時間ができるたびに、マリア様の聖画に祈った。
「祐を召さないで欲しいんです」
「もっと、祐を愛したいから」(マリア様の聖画も濡れていた)
夜の夢に、マリア様とフィリップが現れた。
フィリップは笑顔だった。
「大丈夫、祐に天国の門は、まだまだ先」
マリア様は、光る顏だ。
「ジュリア、しっかり祐を愛しなさい」
「そうすれば、祐は、元気になります」

でも、思い切りハグし過ぎたかな。
祐は、真っ赤な顔。(その丸い目が可愛い)
「キスしていい?」なんて聞かない。
そのまま、ほほに・・・

ようやく解放してあげたら、祐が真っ赤な顔で「人前で恥ずかしいよ」とか言う。
だから、耳元で言ってあげた。
「人前でなかったら?」
「この前の夜のように?」

慌てて顏を赤くする祐が楽しい。(純子と朱里の探るような目も、快感)
私は、追撃をかけた。
「明日の夜、待っています、必ず来なさい」
「もちろん、一人で」
祐は、真っ赤な顔、コクリと頷く。
「ジュリアには、かなわないよ」
「命の恩人で、憧れお姉さんだもの」

そんな愛の会話の後は、仲良く本日の定食「ウィンナーシュニッツェル」を食べる。
パリ生まれの私からすれば、少々野暮な、ウィーンの酒場飯と思ったけれど、マスターの腕がいいので、なかなか美味しい。
でも、祐は、やはり小食(病院食の影響で胃が小さくなったかもしれない)。
3割でギブアップ、珈琲を飲んでいる。(ちなみに、私も純子も朱里も完食)

心配だったので、聞いてみた。
「美味しくないの?」
祐は首を横に振った。
「美味しい、でも、おなかに入らない」
「無理して食べると、午後の講義は眠くなる」
「消化力も落ちているような気がする」

私は、マスターと相談した。
「ねえ、演奏が終われば、食べるかもしれない」
「残しておいて」
マスターも祐の消化能力を心配していた。
「重たかったかもしれないな、肉は」
「それと、退院後初めての演奏、それも気になっているはず」
「しきりに、指のストレッチをしているから」

少々不安だったモーツァルトのヴァイオリンソナタk304が始まった。
やはり、祐の指は、最初は固かった。(懸命に私について来る感じ)
だから目で、祐に聞いた。(大丈夫?)
祐も目で応えて来た。(丸い目が大きくなった)(でも、笑っている目、可愛いな)

第二楽章で、祐君の指は驚くほど安定した。(いつもの祐君に戻っていた)
少々物憂げなメロディが、優雅な安定。(途中から、私も気合を入れなおした)
第二楽章の後半で、祐君の指(ピアノのタッチ)が柔らかくなった。
たとえようもないほどに、美しい音を出して来る。
(私は少し焦った)
(このピアノの音に沿うようにヴァイオリンを弾かねばならないから)
(でも、祐の復活がうれしいので、私も乗った)

曲が終わると、大きな拍手。
祐も立ちあがって、一緒にお辞儀、それでまた大きな拍手。

祐が、ボソッと言って来た。
「道路に倒れた時に、指を・・・実はまだ痛い」

私は、「先に言ってよ」と返したけれど、祐はケロッとした顔。
「これもリハビリ、何とか出来て、良かった」

本当に、真面目な、可愛い子だなと思う。
(決めた!明日の夜は、思いっきり愛してあげる)
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