待合室

文字数 1,050文字

「ダンマチ」という言葉は、もはや半分死語になりかかっているかもしれない。新大阪駅にはまだあるのだろうか。
 漢字では「団待」と書く。団体待合室のこと。
 駅構内のポカンとした広い部屋で、イスなどはない。修学旅行生が当日の朝、集合する場所と思えばわかりやすいかも。
 過去には西明石駅にもあったが、商店街に変わって、今はもうない。

 念のための申し添えますが、「団体待合室」と通常の待合室とは別のもの。通常の待合室にはベンチもあり、灰皿が並んでいたりする。
 思えば最近の駅では、ダンマチどころか、待合室も見かけなくなった気がする。
 いかにも特急停車駅らしく、神戸駅の待合室は古めかしく、立派なものだった記憶がある。

 国鉄時代、北陸線の普通列車は必ずしも接続がよくなかった。特急に乗ればサッと移動できるのだろうが、青春18きっぷの客には、「雷鳥」なんて関係ない。

(当時、18キッパーなんて言葉はもちろんまだない)

 EF70のけん引する普通列車が、敦賀駅に近づきつつあった。私は米原からこの列車に乗車しており、敦賀が終着駅であることももちろん承知していた。
 あの頃、地方の普通列車にはある儀式みたいなものがあり、と言ってもただの車内放送なのだが、おなじみのチャイムの音に続いて、長い長い放送が始まる。

(関係ないが、同じチャイムが私の学校の放送室でも使われていて、鳴るたびに鉄道ファン仲間の友人と顔を見合せた)

 なぜ放送が長いって、敦賀への到着時間から到着番線。
 接続している本線の特急、急行への乗り合え案内。
 ここから分岐する支線列車へのホームと時間の案内などなど、伝えるべきことは山ほどある。

「ほうほう、では車掌さんは、あのことをどう伝えるおつもりであろうか」

 と私がいささか意地悪な気持ちで耳をそば立たせていたのは否定しない。
 なぜってさあ…
 案内放送は続き、ついに終盤にさしかかった。
 ラストに述べるべきは、さらに東、つまり福井、金沢方面への普通列車の時間案内。

「…続きまして、福井金沢方面へまいります普通列車の長岡行きは、〇〇時○○分に〇〇番線、2時間58分のお待ち合わせでございます。お時間がありますので、待合室の方でお待ちください」

 たぶん私は、その時間を待ったのだと思う。
 だが待合室へは行かなかったかもしれない。
 米原からやって来た列車は、敦賀のホームへ入るなり機関車が切り離され、客車はそのまま2時間58分をホームで待機したのだったと思う。
 だから、待つ客がそのまま乗車していても問題はなかった。


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