…という夢をみた

文字数 1,320文字

 ある線の線路ぎわに、いつの頃からか女学校が立っておりました。

 しかしここは駅と駅の中間で、どちらの駅へ歩いても道は遠い。
(都会と違って、地方は駅間が遠い。例えば山陽線の河内駅と本郷駅の間は12・3キロあったりする)

 そこで生徒たちは鉄道省へ請願を行った。
(古い時代なので、まだ国鉄ではないのですよ)

 関係ないが、戦前の日本であれば、正式に請願をし、もしも認められれば、自分の屋敷であろうがどこであろうが、好きな場所へ本物の警察官を配置してもらうことができた(請願巡査)。

 その感じで、
「小さなものでいいから、学校の前に駅を作ってくれ」
 と生徒たちは請願したのである。
 
 しかし鉄道省は、けんもホロロ。

「まあ鉄道省は一銭も出さなくていいというのなら、臨時乗降場の一つぐらい認めてもいいですがね」

 翌朝から、件の線路わきはツチ音も高く、人の群れができたことは言うまでもない。
 1年生から6年生まで(中高一貫校なので)、週に1時間ずつ勤労奉仕を行ったのである。

 10日もたたず、駅はその姿を現した。

 といっても当時のことであるから、線路わきに木のくいを打ち込み、それで土留め板を支え、ホーム面は、もっこで運んできた土を盛り上げただけのもの。

 臨時乗降場は、見かけ上はすぐさま供用可能となったのでありました。

 彼女たちのけなげな努力に胸を打たれたのが、鉄道職員たち。
 なにせ毎日毎日、彼女たちの汗まみれの努力を、通り過ぎる車窓から観察していたのです。

 この職員たちの口添えをもあり、ついに管理局も、この駅の使用と列車の停車を認めたのでした。
 
 ただし時刻表には載らず、この駅の存在は外部には宣伝されません。
(廃止まであと数年、末期の宇品線には、定期券を持った客しか乗車できなかった。しかも市販の時刻表には無表示)

 この駅を利用可能なのは、学校がある日の朝と夕方のみ。
 しかも制服着用の女子生徒だけ。

「そんな駅が本当にあるのか?」ですって?

 疑うあなたも、一度乗車してみるがよろしい。

 列車が到着する直前、旗を持ってホームにたたずむ少女がまず一人。
 彼女がりりしく立つ位置が、機関車の停止目標なのです。

 そのほか数人がホームに散らばり、同級生たちの下車や乗車の誘導に余念がありません。

 何かの都合で定期券が買えず、普通乗車券を持つ乗客に対して入鋏(パンチング)を行うことも仕事の一つなのです。

 停車場ではなく停留所なので、タブレット交換がないのが残念に思えるほど、彼女たちの行動は統制が取れております。

 日暮れが迫り、その日の営業が済むと、短いミーティングの後、用具を片付け、待合室には鍵をかけ、彼女たちも帰路につくのでした。

 そのために乗り込むのは、鉄道職員たちが便宜をはかり、特別に停車させてくれる貨物列車。
 一人ひとりお辞儀をし、彼女たちはヨの車内へと消えてゆくのです…。


 よし、これでいい。これでいいぞ。

 あとは企画書を書いて、どこかの映画会社かアニメ会社へ売り込むだけだな。
 CGを使えば、車両は当時の物が再現できるじゃないか。
 うふふ、これで私も大金持ち…

 そうだ。作品タイトルは、
「ガールズ・パンチャー」
 としよう。

…という夢を見た。

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