しおじ

文字数 851文字


 まずは山陽線に3つの駅が並んでいて、列車は右から左へ向って走るものと思って下せえ。

「大駅C」 ← 「小駅B」 ← 「小駅A」

 ある日、私と両親は「小駅A」から列車に乗ろうとしていた。私がまだ小学校の低学年だった頃のこと。
 台風一過の晴れた日で、多少は遅延していたかもしれないが、列車は走っていた。
 私たちの予定は、「小駅A」から普通列車に乗り、特急が停車する「大駅C」でいったん下車して、特急に乗り換えるというもの。
 特急というのは「しおじ」で、これに乗って兵庫県まで帰るところだった。
 普通列車というのはモハ80系ね。

 普通列車は「小駅A」を発車した。
 次の駅は「小駅B」。ところがこの列車、なかなか「小駅B」を発車しない。
 それどころか案内放送があり、両親を驚かせた。
「この普通電車は予定を変更して、当駅で、後続の特急に道を譲ります」

(「道を譲る」という表現はおそらく使わなかっただろうが、分かりやすいので)

「えっ? 後続の特急とは、我々が乗るはずのしおじのことではないか」

 父はさっそく駅員か車掌に相談したであろう。
 そして、この後に起こったことはほとんど想像だが、車掌か駅員が駅長に連絡し、駅長が鉄道電話をかけ、列車指令に事態を伝えただろう。
 列車指令は一瞬の思考の後、ダイヤグラムを引き寄せ、目を落とす。
「ううむ…」
 そして決定を下す。それから…

 あれれ? 当時の列車には、列車指令と直接会話できる無線機がすでに装備されていたのだろうか?
 もしも無線機がすでにあったのならよし。もしもなかったのなら、手前の停車駅で書類を手渡すしかない。
(あの書類、なんていうんだっけね? 通告票?)

 ええええ、結局「小駅B」にしおじが停車しましたよ。運転停車の一種になるんですかね。
 停車しても、まさか客用ドアを開くことはせず、私と両親は最後尾のクハ、乗務員ドアから乗り込んだ。

(書きながら思いついたのだけど、通告票を手渡さなくとも、「小駅B」の出発信号を赤にして「しおじ」を止めてしまうという手もあるね)

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