トイレ

文字数 552文字

 中学の頃だったか、私が模型のPFを走らせていたら、フスマを開けて母が顔を出し、そして言うのである。

「その模型にはリアリティが足りない」

 なぜか、と問うと、

「足回りにトイレットペーパーがまとわりついていないではないか」

 そう言いつつ母は、そこらにあった紙を数ミリ角にちぎり取り、PFの足回りに装備させてくれた。 

 困ったことにこの話はジョークではなく、実話なのであるが、お若い方にはその意味が分からないかもしれない。

 その昔どころか国鉄時代、在来線の車両トイレは、みな直管式であった。

 いや実は、全車がそうであったかどうかは知らぬが、オハ50がそうであったことは、はっきり覚えている。
(国鉄の新造車のトイレがいつから直管式でなくなったのかは、興味ある研究テーマであろう)

 直管式とは、トイレの排せつ物をタンクにためたりせず、そのまま線路上に流してしまう方式のこと。

「うそだろ」という若い人の声が聞こえてきそうだが、事実は事実。
 それゆえ当時の列車トイレのドアには、「停車中は使用するな」と注意書きがあった。

 そういう方式であれば、使用済みのトイレットペーパーが車両の足回りにまとわりついているということも、別に珍しくはなかったのだ。

(列車の先頭を行くPFの足回りにまでついていたかどうかは疑問だけれど…)
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