Hゴム
文字数 407文字
昔のHゴムはみな灰色だった。
いえ、本当のこと。誰にでもきいてごらんあれ。
学生時代、ある朝に級友が言った。
「山陽電鉄に新型が入った。今までのと同型だが、Hゴムが黒色になっているぞ」
「本当に?」
何日かして、実物を拝む機会が訪れたら、彼の言うとおり。
3050Fは、黒縁のメガネをかけたような顔をして、シラーと走ってゆくではないか。
大げさに言えば、あの日から世界は変わってしまった。
「Hゴムは、必ずしも灰色でなくともよい」
という哲学が世界に浸透し始めたわけである。
意外かもしれないが、黒色Hゴムとは意外と大きな違和感があり、多少は慣れたけれど、今でも全く違和感が消えたわけではない。
さらに言うと、「なんとかF」という言い方も、あの時分にはなかったと思う。
上記のような3050Fとかね。少なくとも私は知らなかった。
だから昭和52か3年以前の撮影で、黒色Hゴムの車両が写っている写真は存在しないと思う。