電圧
文字数 913文字
広辞苑を使っていて気が付いたことだけれど、なぜかあの辞書は、名古屋以西の大手私鉄については、
名鉄電車
阪神電車
西鉄電車
というように、○○電車と項目名を立てている。
ところが関東私鉄についてはみな
小田急線
京王線
西武線
というように、○○線と項目名を立てている。
理由は分からない。
関東の電車など、ろくに乗ったことはなくても、国内の大手私鉄だけは、とりあえず名前はぜんぶ知っている。
その中でも京阪と南海だけは、中学の頃の私の頭の中で、特別の地位を占めていた。
まだ昇圧がされておらず、架線電圧が600ボルトだったのである。
電車の走る電化私鉄であっても、始めから1500ボルト電化だったとは限らない。
もちろんそういう会社もあるが、最初は600ボルトで電化して、後に1500ボルトに昇圧した路線も多い。
昇圧と一言で言っても、大きな会社であってみれば、全線をいちどきにやれるとも限らず、この線路は1500だが、こっちの路線はまだ600ということも起こりうる。
例えば阪急は、京都線は最初から1500だったが、神戸線と宝塚線は600のままだった時代がある。
その時代、京都線にはまだ十三、梅田間の線路がなく、京都線電車は宝塚線に乗り入れて梅田までやって来た。
1500ボルト車が600ボルト区間に乗り入れて、そろりそろりと走っていたそうだ。
600ボルト車が1500ボルト区間へ入るのは無理でも、速度さえ我慢すれば、その逆は可能だからね。
空気圧縮機と、電動発電機さえ600ボルトに対応できれば、まあなんとか。
(600ボルト時代の伊豆箱根鉄道に乗り入れる時、国鉄のモハ80も同じようなことをした)
それはそうと、そもそもなぜ昇圧なんて面倒なことをせにゃならんのかというと、そこには立派な理由がある。
かつて名鉄には、1500/600ボルト対応の複電圧車がいて、線路の方も、新岐阜駅に到着する少し手前で線路の架線電圧が変わるようになっていた。
そこまではいかにもノロノロしていた600ボルト電車が、1500ボルト区間に入った途端、生き返るように元気になるのを見て、
「ああ、これは各社が昇圧したくなるのも当然だなあ」
と納得できた。