1等車

文字数 430文字


 まず最初に、
「幼すぎて、私のまったく記憶していない事件である」
 ということを強調しておきたい。証言者は母一人である。
 
 昭和時代のある日、恐らく電車に乗っての外出先でのことだろう。私は母に言ったそうである。
「もうすぐ1等車がなくなるんだってさ」
 当時の国鉄は、1等車2等車制の時代。
「さようか」と母も思ったらしい。「最後だから1等車に乗ってみようか」
 そして…。
 この頃、大阪緩行線の快速にはサロが連結されていた。
 私と母が記念乗車したのが、どこからどこまでかは知らない。きっと短区間であろう。
 …と、この日は平和に終了したのだが、何日かして母は真相に気づき、「だまされたな」と思ったのだそうな。
 期日が来て、1等車は確かに廃止されたが、翌日からはグリーン車と名を変えただけで、実態はほとんど変わらなかったのだから。

 私としては、嘘などついたつもりはない。とにかく何も覚えていないのだから。
 いやしかし…、小学低学年のくせに、我ながらなかなかやるじゃん。  

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み