宇品線
文字数 923文字
「宇品線」なんて言葉は辞書にはないが、宇品という地名なら載っている。
私が最初に宇品線という言葉と出会ったのは、ある雑誌を読んでいた時のこと。
「宇品線がついに廃止された」という記事だったかもしれないが、とにかく、
「市販の時刻表にはダイヤが掲載されていない」
ことと、
「定期券を持った乗客しか乗車できない」
ことが印象に残った。
この宇品線がどうやら、私の生家の近所を走っていたらしいと分かったのは、つい最近のこと。
宇品というのは広島市街の南部、港に近いあたりにあり、広島駅から分岐して操車場をかすめて、線路がまるで「J」の文字を描くような感じで終点に至るのが宇品線。
宇品駅のホームは563メートルあり、日本一の長さだったとか。
563メートルというと客車28両分だが、まさかそんな長編成が存在したような気はしないので、恐らく2編成を縦に停車させたのだろう。
さらに、
『RMライブラリー 155巻 「宇品線 92年の軌跡」 長船友則著 P17』
によると、終戦後の一時期、宇品線の列車は朝夕のラッシュ時、大変な混雑に見舞われていたらしい。
しかし増結したくても、客車に余裕などない時代。
ということで、やむを得ず貨車を連結した。
車種はワキ1で、両開きのでかいドアがあることと、窓があることで客車代用に選ばれたのだろう。
ただその車体表記がね…
さすがにワキのままにはできず、白ペンキで「な」と書き直してあったそうな。
だけどそれが、なぜ「ナ」ではなく「な」なのかがずっと疑問だったが、最近理由が分かったような気がした。
同書によると、まず「ス」でも「オ」でもなく「ナ」であったのは、ワキ1の重量がちょうど「ナ級」だったからだろう。
しかし貨車そのままで、改造工事すらしていない車体だから、「ナハ」と表記することができなかったのかもしれない。
それで「ハ」を略し、「ナ」だけにしようとした、という意味のことを著者は述べておられるが、私も同感。
だが実際に車体側面に描かれたのは、ひらがなの「な」。カタカナではない。
その理由に最近、私はやっと思い至ったわけでして。
そりゃそうですよ。
カタカナの「ナ」にしたら、活魚車の意味になっちゃうもん。