運転台

文字数 1,003文字



 たった一度だけだが、実物のDD13を運転したことがある。
 国鉄が民営化されてJRに変わる頃、各地の機関区でそういう体験運転のイベントがさかんに行われた。
 私が参加したのは大宮機関区だったが、新聞に記事が出ていて知った。
 私と同じようなイベント参加者たちは20人ほどもいたが、まず最初に部屋へ入れられ、少し座学があった。
 壁際にはDD13のピストンの実物が一つ展示してあったが、

「DLのピストンとは、さぞかし巨大であろう」

 と期待していたのが、それが小さくはないが思うほどにも巨大ではなかったので、ちょっとがっかりした。
 今でも覚えているが、驚いたのは、DD13のエンジンコントロールがたった3個のリレーで行われていたということ(たぶん3つだったと思うよ)。

「総括制御とは意外に簡単なのだな」

 という感じ。
 座学が済んで、いざDD13に乗車するが、体験生は交代交代で運転席に座り、一人が運転するのは構内の1キロほど。時間にして2分間くらい。確か体験料金は10000円だったと思うが、高いのか安いのかよく分からない。
 いざ自分が運転席に座ると、マスコンは金具をねじ止めしてあって、1ノッチか2ノッチまでしか使用できないようになっていた。
 さあ発車時、マスコンに手を伸ばす前に汽笛を1回鳴らすのだが、レバーを押しても何の音もしない。
 間違えて、私は砂を出していたのだ(レバーの形が似ている)。
 あれあれとやり直して鳴っても、やはり慣れない仕事。1回だけ吹鳴するつもりが、ポッポッと2回も鳴ってしまった。

「2回も鳴らしたら連結合図だよ」
 
 とは機関士氏の弁。
 単機だから、DD13はもちろんよく走る。
 1キロの行程の途中、真ん中あたりで一旦停止することになっていた。そのあと再発車して、その先でもう一度停車して、オシマイ。
 つまり、ブレーキ弁を扱う機会が2回あるということ。だから私は、かねてから疑問に思っていたことを実験してみる気になった。
 電車やキハと違って、ロコの運転席にはブレーキレバーが2本あることは、よくご存知であろう。1本はロコだけにかかるブレーキで、もう1本は列車全体にブレーキがかかる。

「この2本はきき具合、きき味が異なるのであろうか」

 指導役の機関士と助士に見つからぬように、私は途中でそっと手を持ち替えた。
 その結果分かったこと。

「どちらのブレーキ弁にも、きき味に差は感じられませんでした」


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