ゲージ
文字数 1,373文字
「日本で最初の鉄道を建設するとき、明治政府が狭軌(1067ミリ)ではなく、標準軌(1435ミリ)を採用していればと、返す返すも残念で、くやまれてならない。
もしも標準軌を採用していれば、輸送力は飛躍的に大きく、その後の国土の発展は相当に違っていたであろう。
特に軍事的に有利であったに違いない」
誰々さんというのではないが、上記のような意見を口にする人がときどきいるけれど、
「本当かなあ?」
と思う。
軍事的に有利というのを、もっと具体的に、
『チキ(長物車)に中戦車を乗せることができる』
と、とりあえず定義するけれど、実際の話、陸上自衛隊の戦車でチキに積載可能なのは、M24や61式までだそうだ。
74式は積むことができず(幅がはみ出す)、90式や10式は言うに及ばず。
しかしながら、
「軌間さえ標準軌であればよかった」
というのなら、
「じゃあ阪急や京急は、中戦車を積んで運ぶことができるのか?」
という話になるが、答えはノーでしょ。
重要なのは軌間だけではなくて、幅の広い車両とともに、幅の広い建築限界が必要になるということ。
74式戦車は平べったいよ。
あれを積むのに十分なサイズのチキかあ…
幅の広い車両は重い。それで組成した列車は、当然ながらさらに重くなる。
けん引するロコには、相当なパワーが必要となる。
明治時代の鉄道を動かしていたのは、なんといってもSLだ。
だから、中戦車を運ぶことができる『幻の標準軌間・国鉄』は、さぞかしでかいSLを必要としただろうが、そこに問題があるような気がする。
なぜならELやDLはともかく、SLを大型化、大出力化するということは、
『全長の長いロコになる』
ということだから。
SLの出力は、主としてボイラーの能力で決まる。
蒸気発生量というやつだ。
もちろんボイラー圧力も関わってはくるが、20気圧とか25気圧とか、やたら高圧蒸気を使うロコは実用的ではなかろうよ。
国鉄のSLも、確かに時代が下るにしたがって圧力を上げてきたが、結局は16気圧で終わってしまった。
たしかC63は18気圧を予定したように思うが、実際には作られていないからね。
蒸気発生量の大きい高出力ボイラーは長い。あきれるほど長い(ビッグボーイを思い浮かべよう)。
要するに、幻の『標準軌間・国鉄』で使用されたであろうSLは、非常に長い車体を持っていたであろうということ。
ELやDLであれば、いくら大型でも、EH10やDD50のように車体を分割することができるけれど、ボイラーではそんなことはできない。
すると何が困るかといえば、
・急カーブが曲がれない。線路建設に際し、カーブを大きくとらなくてはならない。
(→建設費アップ)
・でかいロコの重さに耐えるため、鉄橋は強く頑丈でなくてはならない。
(→建設費アップ)
・機関車が普通サイズのターンテーブルには乗らない。
(→建設費アップ)
それだけではなくて、中戦車を積み込むためには、当然ながら車体幅も広くなくてはならない。
すると、
・トンネルも大きく作る必要がある。
(→建設費アップ)
私の想像ではあるが、もしも明治政府が、中戦車を積み込むことができるような幅の広い列車が走る鉄道を建設しようとしていたなら、予算不足で、日本全国に線路を張り巡らせることはとてもできなかっただろうと思う。