フランジ

文字数 790文字


 別府鉄道にあった別府港という駅は、ちょっと変わっていて、まるでイチョウの葉のような形に線路が走っていた。
 イチョウの葉というのは、アルファベットの「V」のように、2本の線路が枝分かれしている。
 左(西)に伸びるのが野口線で、右(東)に伸びるのが土山線。
 土山線というのは貨物がメインの路線で、1日に3回、ブルーに塗られたDLが、主としてワムの長い編成を引いて発車してゆく。
 といっても、延長が4キロしかない路線だから、時速は20キロぐらいで、「ごろごろ、タンタン」と走っていた。
 なぜだったかは忘れたが、ちょうど私は「V」の分かれ目のあたりにいて、そばには車庫の人がいたかもしれない。
 お願いして、車庫の中を見学させてもらっていた時のことだから。
 ここから右へ行く「V」の分岐は実は鋭くカーブしていて、列車は普段とは違う音を立てる。
 キーン、キーンと車輪が鳴っているのだ。もちろん、レールのつなぎ目のガタンガタンという音もあわせて聞こえている。
 そして私が、「あのキーン音は何ですか?」と質問したのだったと思う。
 すると…
 
「線路がきつくカーブしているから、フランジがレールにこすれている音だ」

 というお答え。

「へえ」

 少しして私は気が付いたことがある。
 フランジがレールに接触するときにあの音が聞こえるのはいい。
 ということは、

「普段は、フランジはレールに接触してはいない」

 ということではないか。
 なぜなら、急カーブでもない限り、あのキーン音を耳にすることはないのだから。
 急カーブではない通常時には、フランジは何にも接触せず、つまり働いていないということ。極端に言えば、フランジなどなくたっていい。
 だからもし、車輪からフランジをすべて取り去った列車を線路に乗せ、走行させたとしても、急カーブに出会わない限り、おそらく意外なほど正常に、脱線することなく走ってしまうだろう。
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