速度
文字数 813文字
私が子供だった頃、日本のリニアモーターカーをはじめ、超高速鉄道の研究が世界中で盛んに行われていた。
例えばフランスではアエロトランといって、下向きに空気を吹き付けて車体を数センチ浮上させ、推進にはジェットエンジンを用いるものを試作していた。
まだ空想の段階ではあったが、地面に掘ったチューブの内部を真空にして、空気抵抗をゼロにして列車を走らせるという夢のようなものまで提唱されていた。
なぜ世界中の国々がそれほど夢中になったかというと、日本の新幹線の成功に刺激されたこともあろうが、実は、
「従来の鉄レール・鉄車輪の列車は、時速300キロ以上では走行不可能である」
ことが論理的に証明されていたから。
「なんだって?」
というお声が聞こえてきそうだが、当時はどの本にも書いてあったこと。
正確には時速300キロではなく、3百数十キロだったろうが、問題はそこではない。
加速に加速を重ねて時速300キロに達すると、あとはいくら馬力をかけても車輪は空転するばかりで、それ以上には加速しなくなってしまう…。
それが理論的に「証明」されていたわけ。
もっとも、後に間違いであると分かったわけだが、実験によって得られた話ではなく、すべて紙上の計算だったそうで、車輪が乗っかると、いくら鉄でできているといっても、軸重でレールはわずかにへこむ。
速度が300に近づくと、そのへこみがどんどん巨大化し、ついには車輪のそれ以上の加速を阻害し始めることを計算結果は示していた。
ところがこの計算には欠点があり、車輪が乗るとレールがへこむのは事実だけれど、実はほんのわずかだが車輪自身も自重で変形するので、それも加味した計算では、時速300キロの壁など存在しない。
そのことが判明して、アエロトランその他の皆様は研究が打ち切られていった。
(そうでなくともアエロトランは、騒音がすさまじかったらしいが)
事実TGVなんて、500キロ出してますもんね。