第344話 戦はやっぱり数がものをいうのか
文字数 2,398文字
三日目の朝は右翼の電撃隊の突撃から始まった。
突撃の援護にイラードが魔銃兵に間断なく射撃させ、魔法兵には投石機 で爆弾 を放り込ませる。
塔からは対抗して弾ける球が投じられたものの彼我の威力と飛距離には雲泥の差があるためこちらの損害は非常に軽微だった。
その間に左翼のフィーバー隊が中央塔を伺う姿勢を見せると、中央塔ではこれに対応するために弓兵の攻撃を集中させてくる。
アゲールは目の前の塔からの攻撃がフィーバー隊に向かないように牽制攻撃を仕掛けてみせる。
その間に主力のダイモンド軍が中央突破のために移動する。
ついに三方から攻める形になった。
三か所とも魔道具を惜しみなく投入して激しく攻め立てると、遠距離戦は不利と見てか門を開いて兵を繰り出してくる。
さすがはアシックサル季爵だ。
戦 勘 がいい。
籠城は中世の戦争では有効な戦術ではあるけれど、大砲の時代に入ると籠っているだけではジリ貧になるばかりでいい戦術とはいえなくなるのだ。
実際、この戦いでも投石機を投入した途端均衡が崩れて我が軍が圧しはじめたのが見て取れる。
投石機で投じられるのが巨石であったならアシックサル軍ももう少し粘っていただろう。
しかし、投げ込まれているのは魔道具の爆弾だ。
壁に当たれば壁が爆ぜ、壁を越えれば広範囲に爆発した破片が飛び散って無差別に被害を撒き散らす。
ううむ……今はこの兵器を持っているのは我が軍くらいだし攻めるばかりでいいけれど、こういうものはいずれ伝播してどこでも使われてしまうものだ。
実際、アシックサル軍は我が軍の魔道具手榴弾 を模して「弾ける球」を開発し、実戦に投入している。
僕らは神の配剤によって前世持ちなど多くの才能が集まっているために他の戦国領主に先んじて近代化に成功したに過ぎない。
そのアドバンテージを利用した戦術で数的不利を補っている間に数の力を獲得しなければいけないのだ。
出撃したアシックサル軍はガップリ組んでの白兵戦になるとかなり手強いだろう。
こちらは兵に多くの魔法兵、魔銃兵を含んでいるので接近戦での分が悪い。
歩兵は長柄の槍で武装しているので片手剣で武装したアシックサル兵より幾分リーチが長いものの、所詮は戦時徴発で集めただけの弱兵である。
魔法兵に手榴弾を投擲してもらい兵を散らして接敵圧力を弱めつつ魔銃兵がその兵たちを狙撃しているものの、押し寄せる兵を完全には止められずにいる。
右翼も左翼も状況は変わらない。
「トーハ」
「ここに」
「魔銃兵を前進させてアゲールの援護をせよ」
「かしこまりました」
「チャールズ」
「はい」
「カシオペア隊に連絡をとり、作戦を決行せよと指示を出せ」
命じると、すでに通信兵が控えていつでも連絡を取れるように準備している。
「それがすみ次第魔法兵とともに中央を援護。ラバナルとともに派手に暴れてこい」
「お館様はいかがなさるおつもりで?」
「しれたこと」
僕は槍を頭上で二度三度と振り回すと、ゴシゴシと槍の柄をしごく。
「ご武運を」
「おうよ」
僕の周りには近衛の騎兵が五十だけになった。
本当は右翼にも援兵を送りたいところだけど行けそうにない。
中央はラバナルとチャールズがいればお釣りがくる。
拍車をかけた僕が槍を小脇に抱えて山の斜面を駆け登るのに近衛の騎士たちは軽々とついてきた。
鍛え上げられた精鋭だ。
「頑張ってくれよ」
ホルスの首筋を軽く叩いて声をかけると、一声嘶 く。
大きく息を吸ったら再び拍車でホルスに突撃の合図を送ると、登った斜面を駆け下る。
木立の間を勢いを殺さずにひょいひょいとかわしながら進むと、やや劣勢のアゲール軍が見えてくる。
乱戦になっているためか双方飛び道具が使えずにいるようだ。
「突撃ぃ!」
すでに突撃は敢行しているのだけど、これは相手への威嚇である。
心得たもんで、近衛兵は皆大きな声を上げて僕を抜き去ろうとホルスに拍車を入れる。
突然、至近距離であがった鬨 の声に敵味方問わずに一瞬動きが止まった。
そこにドドドドっと騎兵が流れ込んでくるのだから機敏に対応できるのはよほど場慣れした猛者くらいなものだろう。
しかも、側面から脇を突かれたアシックサル兵は大混乱に陥った。
「今ぞ、圧し込め!」
アゲールの声が戦場によく通る。
側面から錐を揉み込むように突き抜けた後に振り返ると、分断された敵後方に手榴弾が投げ込まれている。
左翼の魔法兵を指揮しているのは誰だ?
判断が早くてえげつない。
いや、褒め言葉だからね。
そこに陽動として中央塔に向かっていたフィーバー隊が戻ってくる。
「やりますな」
ジャパヌがホルスを寄せてくる。
「あとは任せたぞ」
「もう一突き突撃かませば均衡も崩れましょう、お任せあれ」
豪快に笑いながらそういうと、表情を引き締めて突撃していく。
さて、僕はこのまま中央へ攻め入るか、それとも右翼へ回り込むか。
うん、ラバナルとチャールズ率いる二百もの魔法兵がいて中央が圧し負けるなんてないな。
僕は中央の戦場を迂回して右翼のさらに右側へと回り込む。
うへ、ここは結構押し込まれてるな。
ここにくるまでにかなりの迂回を強いられたからだと思うけど、すでに均衡が破れかかっているじゃないか。
槍兵の統率が乱れまくっているぞ。
誰が指揮しているんだ?
いや、詮索は後回しだ。
しかし、ここまで乱戦になっていると、集団で突撃というのも効果は薄いな。
さて、どうしたらよいものやら。
僕は左翼でやったように、少し上まで登って戦況を凝視する。
とりあえず、指揮官を探そう。
イラードが最前線で戦線を持ち堪えているみたいだ。
これはやばい。
右翼は機動戦力として電撃隊が配属されている。
バンバもカレンもブンターもそれぞれ活躍しているな。
あとはメゴロマとギラン、エギュー、ジャミルト……エギューが見当たらない。
討たれたのか!?
突撃の援護にイラードが魔銃兵に間断なく射撃させ、魔法兵には
塔からは対抗して弾ける球が投じられたものの彼我の威力と飛距離には雲泥の差があるためこちらの損害は非常に軽微だった。
その間に左翼のフィーバー隊が中央塔を伺う姿勢を見せると、中央塔ではこれに対応するために弓兵の攻撃を集中させてくる。
アゲールは目の前の塔からの攻撃がフィーバー隊に向かないように牽制攻撃を仕掛けてみせる。
その間に主力のダイモンド軍が中央突破のために移動する。
ついに三方から攻める形になった。
三か所とも魔道具を惜しみなく投入して激しく攻め立てると、遠距離戦は不利と見てか門を開いて兵を繰り出してくる。
さすがはアシックサル季爵だ。
籠城は中世の戦争では有効な戦術ではあるけれど、大砲の時代に入ると籠っているだけではジリ貧になるばかりでいい戦術とはいえなくなるのだ。
実際、この戦いでも投石機を投入した途端均衡が崩れて我が軍が圧しはじめたのが見て取れる。
投石機で投じられるのが巨石であったならアシックサル軍ももう少し粘っていただろう。
しかし、投げ込まれているのは魔道具の爆弾だ。
壁に当たれば壁が爆ぜ、壁を越えれば広範囲に爆発した破片が飛び散って無差別に被害を撒き散らす。
ううむ……今はこの兵器を持っているのは我が軍くらいだし攻めるばかりでいいけれど、こういうものはいずれ伝播してどこでも使われてしまうものだ。
実際、アシックサル軍は我が軍の魔道具
僕らは神の配剤によって前世持ちなど多くの才能が集まっているために他の戦国領主に先んじて近代化に成功したに過ぎない。
そのアドバンテージを利用した戦術で数的不利を補っている間に数の力を獲得しなければいけないのだ。
出撃したアシックサル軍はガップリ組んでの白兵戦になるとかなり手強いだろう。
こちらは兵に多くの魔法兵、魔銃兵を含んでいるので接近戦での分が悪い。
歩兵は長柄の槍で武装しているので片手剣で武装したアシックサル兵より幾分リーチが長いものの、所詮は戦時徴発で集めただけの弱兵である。
魔法兵に手榴弾を投擲してもらい兵を散らして接敵圧力を弱めつつ魔銃兵がその兵たちを狙撃しているものの、押し寄せる兵を完全には止められずにいる。
右翼も左翼も状況は変わらない。
「トーハ」
「ここに」
「魔銃兵を前進させてアゲールの援護をせよ」
「かしこまりました」
「チャールズ」
「はい」
「カシオペア隊に連絡をとり、作戦を決行せよと指示を出せ」
命じると、すでに通信兵が控えていつでも連絡を取れるように準備している。
「それがすみ次第魔法兵とともに中央を援護。ラバナルとともに派手に暴れてこい」
「お館様はいかがなさるおつもりで?」
「しれたこと」
僕は槍を頭上で二度三度と振り回すと、ゴシゴシと槍の柄をしごく。
「ご武運を」
「おうよ」
僕の周りには近衛の騎兵が五十だけになった。
本当は右翼にも援兵を送りたいところだけど行けそうにない。
中央はラバナルとチャールズがいればお釣りがくる。
拍車をかけた僕が槍を小脇に抱えて山の斜面を駆け登るのに近衛の騎士たちは軽々とついてきた。
鍛え上げられた精鋭だ。
「頑張ってくれよ」
ホルスの首筋を軽く叩いて声をかけると、一声
大きく息を吸ったら再び拍車でホルスに突撃の合図を送ると、登った斜面を駆け下る。
木立の間を勢いを殺さずにひょいひょいとかわしながら進むと、やや劣勢のアゲール軍が見えてくる。
乱戦になっているためか双方飛び道具が使えずにいるようだ。
「突撃ぃ!」
すでに突撃は敢行しているのだけど、これは相手への威嚇である。
心得たもんで、近衛兵は皆大きな声を上げて僕を抜き去ろうとホルスに拍車を入れる。
突然、至近距離であがった
そこにドドドドっと騎兵が流れ込んでくるのだから機敏に対応できるのはよほど場慣れした猛者くらいなものだろう。
しかも、側面から脇を突かれたアシックサル兵は大混乱に陥った。
「今ぞ、圧し込め!」
アゲールの声が戦場によく通る。
側面から錐を揉み込むように突き抜けた後に振り返ると、分断された敵後方に手榴弾が投げ込まれている。
左翼の魔法兵を指揮しているのは誰だ?
判断が早くてえげつない。
いや、褒め言葉だからね。
そこに陽動として中央塔に向かっていたフィーバー隊が戻ってくる。
「やりますな」
ジャパヌがホルスを寄せてくる。
「あとは任せたぞ」
「もう一突き突撃かませば均衡も崩れましょう、お任せあれ」
豪快に笑いながらそういうと、表情を引き締めて突撃していく。
さて、僕はこのまま中央へ攻め入るか、それとも右翼へ回り込むか。
うん、ラバナルとチャールズ率いる二百もの魔法兵がいて中央が圧し負けるなんてないな。
僕は中央の戦場を迂回して右翼のさらに右側へと回り込む。
うへ、ここは結構押し込まれてるな。
ここにくるまでにかなりの迂回を強いられたからだと思うけど、すでに均衡が破れかかっているじゃないか。
槍兵の統率が乱れまくっているぞ。
誰が指揮しているんだ?
いや、詮索は後回しだ。
しかし、ここまで乱戦になっていると、集団で突撃というのも効果は薄いな。
さて、どうしたらよいものやら。
僕は左翼でやったように、少し上まで登って戦況を凝視する。
とりあえず、指揮官を探そう。
イラードが最前線で戦線を持ち堪えているみたいだ。
これはやばい。
右翼は機動戦力として電撃隊が配属されている。
バンバもカレンもブンターもそれぞれ活躍しているな。
あとはメゴロマとギラン、エギュー、ジャミルト……エギューが見当たらない。
討たれたのか!?