第32話 初めての冒険1 村人全員怪物退治に行く

文字数 2,465文字

 ジョーとの会談から二日後、大量の木材とともに男たちが戻ってきた。
 そんな彼らを僕とジョーがにこやかに出迎える。

「嫌な予感がビンビンするぜ」

 サビーの勘は鋭いなー(棒)
 僕は、ジャリに頼んでいた何種類かの鉄製武器をみんなの前に用意する。

「明日一日休んだら、この武器持って西の山に行くよ」

 と、朗らかに宣言した。

「はぁ!?

 うん、そういう反応になるよね。
 僕はざっとどうして武器が必要なのか、二日前にジョーと話し合ったことを改めて説明する。

「それと西の山に行くのとどう関係があるんだ?」

 いい質問ですね!

「西の山には怪物(モンスター)がいるからです」

 当然、村人はざわつくよね。
 まぁ、村にいる限り安全なんだけどね。
 僕は怪物の説明をする。

 おっと、みんなにも説明しとくね。
 この世界には植物・動物と怪物と魔物という生物区分があるんだ。
 植物動物については前世の区分でだいたいあってる。
 魔物は魔力によって動いていたり、魔力を何らかの形で利用する生き物のことだ(もっとも魔力を魔法として利用していても僕ら人族(ヒューマン)やナルフ族などを魔物とは呼ばない)。
 ここら辺は非常に明確に区分できてる。
 さて、怪物だ。
 これは実は一般の動植物との区分がかなり曖昧で、書物によれば怪物と思われていたものが実は動物だったり、学者の論争で動物から怪物にカテゴリーが変更になったものもあるらしい。
 雑な説明をすると人に害をなすものが怪物ってことになってるんだけど、じゃあ時々人を襲うことのあるボワールやバヤルは怪物かといえば猛獣と呼ばれることはあっても怪物じゃないんだな。
 で、問題の西の山に生息している怪物なんだけど、これはもう怪物としか呼びようのない生き物だ。
 名をスクリトゥリという。
 この辺では西の山にしか生息していない植物系の怪物で、根を張っているのでほとんど移動できない。
 「枝」が動いて相手を捕まえ、絞め殺した後「根」で絡め取って養分を吸収する。
 捕食対象は主に動物だけど、怪物や魔物も分け隔てなく襲ってくれる。
 力は強いが枝の動きはそれほど早くなく、不意を突かれなければ大人ならだいたい対処できる。

「そんな怪物をなぜわざわざ退治に行く必要があるんだ?」

 サビーがあまり興味なさそうに訊ねてくる。

「さっき村長が説明した通りこの村に俺たちの拠点を作る」

 と、ジョーが説明を引き受けてくれた。
 そっちの方が説得力があるだろうと、僕は任せる。

「そうするとそのことを嗅ぎつけた野盗に襲われる可能性があるだろ? 村を守る戦いは避けられない。そこでみんながどれくらい強いか知っておきたいわけだ」

「自分の身は最低限自分で守れってことか?」

 と、ルダーが訊ねる。

「そういうことだ。俺たちの品物はサビーたちが守る。そこらの野盗なら十人二十人と束になっても負けないだろうが、彼らはあくまで俺の私兵だと思ってくれ。最終的には俺たちの品物を守ることが最優先だ」

「もちろん、村に野盗を入れないのが最善だから彼らが村のために戦わないってことじゃないよ」

 と、一応フォローする。

「ということで、スクリトゥリ退治でみんながどれくらい戦えるかみて、今後の対策を考えようと思っているんだ」

「そういうことならワシらには異存はない」

「ワタシに意向を確認しましたか? ガーブラ」

「なんじゃい? イラードは異存があるのか?」

「ないですけどね」

「ならいいじゃろう」

 他の住人も概ね異存はなさそうだったので、割とあっさり予定通り明日一日休養日に充てて、明後日からスクリトゥリ退治に西の山に行くことになった」

「私たちも行きたい」

 と、強く主張したのはクレタだ。女性陣にも二、三人希望している住人がいるらしい。
 そもそも戦闘の頭数に入っているオギンとザイーダ以外にも戦いたいっていう跳ねっ返りがいるんだね。
 さすがにカルホとアニーはお留守番だ。
 クレタはちょっと議論になったけど、最終的にオギンが面倒を見ることでみんなの許可が出た。
 まぁ、僕が「連れて行く」と強く主張すれば否応なく参加させられたかもしれないけど、今はまだ信頼も実績もない「たまたま村長」だから、みんなで話し合って納得ずくの結論の方がいい。
 ということで次の日はだらだらと家を作ったりしながら過ごし、出発の朝を迎える。
 もう標高の高いところはチラチラと雪が降ってたりする季節ということで、みんなそれなりにあったかい格好で西の山に向かう。
 村の西側はいくらも進まないうちに森になり、やがて山を登り始める。
 西は切り立った崖とはいえ、登れるところはあるもんだ。
 スクリトゥリは大体標高七百シャル以上に生息しているらしい。
 僕の村が標高三百シャルと比較的高地に存在しているので、四百シャルくらい登るとスクリトゥリのテリトリーだ。

「そろそろスクリトゥリのテリトリーだ。みんな気をつけろ」

 サビーが注意を促す。
 実は夏場、スクリトゥリを見分けるのは比較的簡単だ。
 奴らは樹木に似ているけれど怪物で、生き物を襲って養分にしているからか葉が茂らない。
 残念なことに今は冬の初めで山の木はほとんど落葉しているから、ぱっと見見分けがつかない。
 ならなんでこの時期にスクリトゥリ退治なんかしようと思ったかといえば、ま・タイミングの問題もあったんだけど、簡単に見分けられたらみんなの戦闘力を測れないと思ったからだ。
 村の再建はキャラバンの人たちと女性陣に任せてきたのだけど、なぜか指揮を頼もうとしたジョーもこっちに参加してる。

「俺がジャッチメントしようと思ってな」

 って言ってたけど、これ、たぶん僕が試されてるんだよね、きっと。

「そうね」

 うん、ジャン()はリリムの賛同を得た。
 テッテレ〜!

「ん?」

 心の中でふざけていると、違和感のある木を見つけた。
 妙にクネクネした幹の木だ。
 周りの木は天に向かってまっすぐ伸びようと努力してる風なのに、その木だけはなんていうかひねくれてる。

 たぶんこいつがスクリトゥリだ。

 僕はジョーに視線を送って頷くと、腰に()いはいた剣を抜く。
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