第306話 終日の攻防 4

文字数 2,210文字

「ガーブラのやつはなんと?」

「地下への階段を見つけたので下りたとある」

 地下に潜ったので通信が途絶えたとか、携帯電話の電波と同じ原理なのだろうか?
 この戦が一段落ついたら調査してみないとな。
 それはひとまず置いといて。

「サビー、隊を二つに割ってこの階をくまなく回るぞ。階段を見つけても階を移動するな」

「かしこまりました」

 大きいと言っても所詮は地方領主の居城だ。
 一フロアをめぐるのに一時間とかかるわけもない。
 それは戦闘があったとしてもだ。
 イラード隊を連れたサビー隊と合流すると、さっそく情報を突き合わせる。
 上り階段は全部で六カ所。
 外観から見たかぎり塔が四本立っていた。

「塔の位置関係から考えると、この二カ所がその階段でしょう」

 と、イラードが図面を指差す。

「待て待て、塔は四本あるんだぞ。どうして階段二カ所なんだよ」

「一本は離れた場所に立っていた塔、もう一本は五階の上に立てられていた」

 よく見ている。

「塔はそれほど太くはなかったな」

「は。離れの塔はおそらく幽閉塔。五階の上にある塔は領主が町の見下ろすための展望塔と推察します」

「じゃあ、後の二本は?」

「知るかよ。自分で考えろ」

 脳筋兄貴とインテリ弟。
 イラードの口が悪くなるわけだ。

「お館様、いずれにしても塔に将がいるとは考えにくかと存じます」

 たしかに戦闘するには不向きなサイズ感だし、大人数で立てこもるには狭かろう。

「イラード。二つの塔へ一隊ずつ送れ。残りの階段は私とサビーとイラードと……今残っている隊長の中で将を任せられそうなものはいるか?」

「されば、メゴロマかブドルに任せるのはいかがでしょう?」

 メゴロマ・シードゥはヒロガリー区攻略戦の時に町を見捨てて逃げた代官たちに憤って僕に降った騎士。
 ブドル・フォークはオルバックJr《ジュニア》.がアシックサル軍に寝返って父オルバックと援軍として駆けつけたルビレルが戦死した砦の攻防でオルバック夫人を守って奮戦した騎士だ。
 ちなみに、その後見事に夫人の心を射止めている。
 これを騎士の純愛物語と見るか、不幸につけ込んで我が物にしたととるかは、受け手次第だ。
 参考までに吟遊詩人たちは純愛の物語、ハッピーエンドの詩曲として酒場で披露している。
 そっちの方がウケがいいということだ。
 さて、じゃあ美談をもう一つ付け加えさせようか。

「よし、ブドルに任せよう。メゴロマは私の副官として随行させる」

 振り分けた三隊は好き勝手に目標を決めて移動を開始する。

「よろしくお願いします」

 メゴロマも返り血がまだ滴った状態だ。
 かなり派手に切り結んでいたのだろう。
 まったく、みんなすごいな。

「武勲に期待している」

「行先に大将首が待っているならぜひワタシにお任せください」

 サビー、イラード、ブドルが向かった階段を確認して最後の階段へ向かう。
 四階は階段を見つけるためにくまなく回ったので、ここで接敵することはなく階段下までたどり着いた。

「斥候」

 メゴロマの指示のもと、三人の兵士が階段を慎重に上る。
 今までにない対応がとても新鮮だ。
 サビーやガーブラ、イラードでさえ斥候なんて出さずに力押しで圧し進んでいたからな。
 かくいう僕も深く考えずに突撃指示を出していた。

!?

 階段を上り切ったはずの三人が相次いで転げ落ちてきた。
 なにが起きた!?
 兵たちもざわついている。
 可能性は二つ三つってとこか?

(リリム)

(任せて)

 新たな斥候を指名していたメゴロマを制してリリムを待つ。
 その間に回収した三人の死体を確認させる。
 ほどなくしてリリムが戻ってきた。

(魔法使いが五人いたわ。鉄の(スチール)弾丸(バレット)ね、きっと)

 検死をした衛生兵の見立てと一致する。
 五人か……。

「お館様。どうなさいますか?」

 僕は考えるそぶりでリリムに話しかける。

(魔法使いの他は?)

(盾を持った兵士が五人、魔法使いの前に盾を構えていたわ。後方には三十人くらいの兵士。騎士ね)

 ううむ……あまり魔法使いを危険に晒したくないんだけど……。

「魔法兵」

 魔法兵は他の兵種と違って二十人で一隊を形成している。
 これ最初に編成した時点で魔力感応力者から魔法が使えるまでになった人間が七人しかおらず、魔道具を扱える魔力感応力者を等分に配属させたら一隊二十人になったということに由来している。
 大事な魔法戦力なので現在も二十人規模を維持しているわけだ。
 今では魔導兵器を装備した魔導兵(主に銃兵や砲兵がそれにあたる。ちなみに通信兵も魔導兵だ)と魔道具を使わずとも魔法が使える魔法兵に分かれているけれどね。
 もちろん、魔法兵も小銃などの魔導兵器は携帯している。
 魔法兵はエリート中のエリートなのだ。

「敵の魔法使いを無力化せよ」

「はっ」

 戦場だから常に命の危険はあるけれど、希少な魔法使いは安全な後方に留め置かれることが多いので、なかなか酷な命令ではある。
 にもかかわらず、即座に覚悟を決めるのだからいやはや肝が据わっている。

「お前たち、彼らの盾となれ」

 そうメゴロマが命令したのはメゴロマ自身の従者のようだ。
 元が用心棒であるサビーたちと違いメゴロマはズラカルト配下の騎士だった。
 当然、身の回りの世話をする従者が数人ついている。
 彼らは騎士の身の回りの世話をするのが仕事であり、時には騎士を守る盾になる。
 なかなかそんな役回りだ。
 生き延びたならばそれなりの恩賞を与えようじゃないか。
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