第128話 ジャン、ようやく攻勢に出る。
文字数 2,354文字
刈り入れ直後の第四中の村を粛々と通り過ぎ、一の町へと進む軍の中に僕はいる。
悪党働きで年貢の荷を奪ってから約一年、ついに武力による領土拡大戦に打って出たのだ。
戦国時代に覇を唱えるためには防衛戦でいくら勝っても意味はない。
「俺は強いんだぞ! この国を統一するんだ!」
と、世間に喧伝しなくちゃダメなんだ。
というわけでこの冬の間に、いや、秋のうちにオグマリー区を統一するという経略のもと、第一目標の一の町攻略のために進軍している。
兵 は神速 を貴 ぶ
とは言われるけれど、なにも常に全力疾走すればいいってもんじゃない。
戦える体力温存をちゃんと計算に入れなきゃ意味がない。
そもそも我が軍は相手に対して寡兵であることを強いられている。
それを覆すための先制攻撃であり、奇襲攻撃なのだから。
バロ村ボット村セザン村の三ヶ村から最大動員した全兵力は先頭からカイジョーの槍隊七十、ザイーダの投石隊三十、イラードの弓隊五十、ギランの槍隊八十と本陣である僕の隊と総勢二百五十余り。
これに輜重隊がついてくるので三百人規模の行軍だ。
輜重隊は第四中の村を出た辺りに作り、夜を過ごした宿営地で待機している。
僕らは昼前に城壁で囲われている一の町に到着する予定だ。
「お館様、そろそろでございます」
ホルスを近づけそう助言してきたのはルビレルだ。
「うむ」
なんて仰々しくうなずいて采配を振る。
ここら辺りは僕の勢力圏と違って街道整備が不十分で二列縦隊がせいぜいなので長蛇の列である。
最後尾の本陣から先頭へ指示を出すのにホルスを飛ばすとか時間の無駄だし、陣太鼓で指示を出すなんてせっかくの奇襲戦が台無しだ。
そこで魔法の出番である。
この一年でラバナル達が開発した通信魔道具が移動用 電話 。
移動用電話なんて名付けられているけれど、ビジュアルは戦争映画に出てくる通信兵が背負っているあれだ。
原理的には無線機と言っていい。
魔道具で音声を電気ではなく魔力の塊に変換して飛ばし、大気中に漂っている魔力を伝播させて受信側で受けるという仕組みだ。
魔法使いであるラバナルとチャールズの間でしか使えないのが難点なのだけれど、先頭集団にいるラバナルにチャールズから指示が出る。
予定では町を急襲して、まず投石隊と弓隊が町に飛び道具を射かけることになっている。
それを合図に町の中に忍ばせていたキャラ達が町の中を混乱させ、ジョーのキャラバンが門を抑える手筈なのだ。
出入口さえ確保できれば、カイジョー隊が第四、第三先の村への出入り口を押さえ、ギラン隊が一気に代官屋敷に攻め入って今日中に町を陥落させる計画だ。
目標はできるだけ犠牲は少なく。
事前の想定ではこちらの被害を十人前後、敵方の被害を五十以内に考えている。
この世界は地球人的カテゴリーに当てはめるとファンタジー世界なわけだけど、冒険者ギルドなんて便利なものがあるでも常に鎧姿で町を闊歩している冒険者なんてのがいるでもない。
街中の警備は帯剣こそしていても警備兵は軽装備だ。
僕は一度商都ゼニナルに行くのに立ち寄ったことがあるけれど、門の警備も形ばかり。
長い平和で危機意識も少なかった。
もっとも、僕という敵対勢力が台頭してきたことで多少警備が強化されているとは聞いている。
それでも厳重警戒には程遠い。
この一戦は百パーセントの勝算があるくらいの勝負だ。
ここを陥して「さぁ、本番」てな具合なのである。
などと考えていたら進軍速度が速まってきた。
おそらく先頭はそろそろ町に攻撃を仕掛けている頃だろうなんて考え始めた頃に、前方で鬨の声が上がり天に向かって石や矢が上がるのが見えた。
おっ、始まったな。
二度の斉射の後、ややあって再び鬨が上がる。
見えてきた。
ちょうどカイジョー隊が門の中に雪崩れ込んでいくところだった。
「こちらラバナル、聞こえとるか?」
魔道具移動用電話からラバナルの声が聞こえてくる。
なんとも雑音の多い音だ。
例えるならチューニングの甘いAMラジオの音声だ。
「こちにチャールズ、音声良好です」
これでも良好なんだ。
「今、カイジョーの槍隊が町に突入した。門衛は二度の斉射で全滅した模様。お、ギラン隊が町に入るようじゃ」
なんとも花見遊山のような報告である。
ある種の戦争実況だぞ、本来。
「こちらの被害状況は?」
「ないの」
そっけない返事だ。
「待て待て、イラードが話があるそうじゃ」
「お館様、我々はどうすれば良いですか? ご指示をお願いします」
働き者だなぁ。
「ご苦労。では、城壁に登って別の出入口から逃げる敵兵を阻止せよ。あ、投石隊はキャラバン隊と合流して、門を死守せよと伝えること」
「かしこまりました」
「一般人への攻撃は厳罰に処す。命令徹底確認せよ」
「了解です」
「ワシはどうする?」
「本陣に合流してギラン隊の後を追い、代官屋敷を制圧する」
「ほぅ! よいのぅ」
顔が見えなくても判るぞ、絶対悪い顔して笑ってるだろ。
「こちらからは以上だ」
「了解じゃ」
通信を切ったことを確認した僕は、采配を振り上げる。
「前進!」
大声での下知と共に采配を振り下ろすと、鬨が上がってみんながホルスに拍車を当てる。
ドドドと土煙を上げて町へ突入する騎兵隊。
これは想定どおりの圧勝だろう。
その予想どおり、代官屋敷についた頃には勝負がついていた。
キャラ組による工作で内応していた者たちがあっさりと代官とその側近達を捕縛していたようだ。
僕の攻略計画、緒戦は一時間という想定の半分にも満たないびっくりするような短時間での圧勝だった。
では、恒例の、いきますか。
「勝鬨じゃ!」
代官屋敷前での勝鬨に合わせて、四方の門からも勝鬨が聞こえてきた。
最っ高!
さて、勝って兜の緒を締めよう。
悪党働きで年貢の荷を奪ってから約一年、ついに武力による領土拡大戦に打って出たのだ。
戦国時代に覇を唱えるためには防衛戦でいくら勝っても意味はない。
「俺は強いんだぞ! この国を統一するんだ!」
と、世間に喧伝しなくちゃダメなんだ。
というわけでこの冬の間に、いや、秋のうちにオグマリー区を統一するという経略のもと、第一目標の一の町攻略のために進軍している。
とは言われるけれど、なにも常に全力疾走すればいいってもんじゃない。
戦える体力温存をちゃんと計算に入れなきゃ意味がない。
そもそも我が軍は相手に対して寡兵であることを強いられている。
それを覆すための先制攻撃であり、奇襲攻撃なのだから。
バロ村ボット村セザン村の三ヶ村から最大動員した全兵力は先頭からカイジョーの槍隊七十、ザイーダの投石隊三十、イラードの弓隊五十、ギランの槍隊八十と本陣である僕の隊と総勢二百五十余り。
これに輜重隊がついてくるので三百人規模の行軍だ。
輜重隊は第四中の村を出た辺りに作り、夜を過ごした宿営地で待機している。
僕らは昼前に城壁で囲われている一の町に到着する予定だ。
「お館様、そろそろでございます」
ホルスを近づけそう助言してきたのはルビレルだ。
「うむ」
なんて仰々しくうなずいて采配を振る。
ここら辺りは僕の勢力圏と違って街道整備が不十分で二列縦隊がせいぜいなので長蛇の列である。
最後尾の本陣から先頭へ指示を出すのにホルスを飛ばすとか時間の無駄だし、陣太鼓で指示を出すなんてせっかくの奇襲戦が台無しだ。
そこで魔法の出番である。
この一年でラバナル達が開発した通信魔道具が
移動用電話なんて名付けられているけれど、ビジュアルは戦争映画に出てくる通信兵が背負っているあれだ。
原理的には無線機と言っていい。
魔道具で音声を電気ではなく魔力の塊に変換して飛ばし、大気中に漂っている魔力を伝播させて受信側で受けるという仕組みだ。
魔法使いであるラバナルとチャールズの間でしか使えないのが難点なのだけれど、先頭集団にいるラバナルにチャールズから指示が出る。
予定では町を急襲して、まず投石隊と弓隊が町に飛び道具を射かけることになっている。
それを合図に町の中に忍ばせていたキャラ達が町の中を混乱させ、ジョーのキャラバンが門を抑える手筈なのだ。
出入口さえ確保できれば、カイジョー隊が第四、第三先の村への出入り口を押さえ、ギラン隊が一気に代官屋敷に攻め入って今日中に町を陥落させる計画だ。
目標はできるだけ犠牲は少なく。
事前の想定ではこちらの被害を十人前後、敵方の被害を五十以内に考えている。
この世界は地球人的カテゴリーに当てはめるとファンタジー世界なわけだけど、冒険者ギルドなんて便利なものがあるでも常に鎧姿で町を闊歩している冒険者なんてのがいるでもない。
街中の警備は帯剣こそしていても警備兵は軽装備だ。
僕は一度商都ゼニナルに行くのに立ち寄ったことがあるけれど、門の警備も形ばかり。
長い平和で危機意識も少なかった。
もっとも、僕という敵対勢力が台頭してきたことで多少警備が強化されているとは聞いている。
それでも厳重警戒には程遠い。
この一戦は百パーセントの勝算があるくらいの勝負だ。
ここを陥して「さぁ、本番」てな具合なのである。
などと考えていたら進軍速度が速まってきた。
おそらく先頭はそろそろ町に攻撃を仕掛けている頃だろうなんて考え始めた頃に、前方で鬨の声が上がり天に向かって石や矢が上がるのが見えた。
おっ、始まったな。
二度の斉射の後、ややあって再び鬨が上がる。
見えてきた。
ちょうどカイジョー隊が門の中に雪崩れ込んでいくところだった。
「こちらラバナル、聞こえとるか?」
魔道具移動用電話からラバナルの声が聞こえてくる。
なんとも雑音の多い音だ。
例えるならチューニングの甘いAMラジオの音声だ。
「こちにチャールズ、音声良好です」
これでも良好なんだ。
「今、カイジョーの槍隊が町に突入した。門衛は二度の斉射で全滅した模様。お、ギラン隊が町に入るようじゃ」
なんとも花見遊山のような報告である。
ある種の戦争実況だぞ、本来。
「こちらの被害状況は?」
「ないの」
そっけない返事だ。
「待て待て、イラードが話があるそうじゃ」
「お館様、我々はどうすれば良いですか? ご指示をお願いします」
働き者だなぁ。
「ご苦労。では、城壁に登って別の出入口から逃げる敵兵を阻止せよ。あ、投石隊はキャラバン隊と合流して、門を死守せよと伝えること」
「かしこまりました」
「一般人への攻撃は厳罰に処す。命令徹底確認せよ」
「了解です」
「ワシはどうする?」
「本陣に合流してギラン隊の後を追い、代官屋敷を制圧する」
「ほぅ! よいのぅ」
顔が見えなくても判るぞ、絶対悪い顔して笑ってるだろ。
「こちらからは以上だ」
「了解じゃ」
通信を切ったことを確認した僕は、采配を振り上げる。
「前進!」
大声での下知と共に采配を振り下ろすと、鬨が上がってみんながホルスに拍車を当てる。
ドドドと土煙を上げて町へ突入する騎兵隊。
これは想定どおりの圧勝だろう。
その予想どおり、代官屋敷についた頃には勝負がついていた。
キャラ組による工作で内応していた者たちがあっさりと代官とその側近達を捕縛していたようだ。
僕の攻略計画、緒戦は一時間という想定の半分にも満たないびっくりするような短時間での圧勝だった。
では、恒例の、いきますか。
「勝鬨じゃ!」
代官屋敷前での勝鬨に合わせて、四方の門からも勝鬨が聞こえてきた。
最っ高!
さて、勝って兜の緒を締めよう。