第253話 最初で最後の邂逅
文字数 1,988文字
外に出ると、出迎えの兵士たちが改めて歓声を上げてくれる。
なんか、ふわふわして地に足がついてないような心持ちだ。
気を引き締めないと、こういう時に足元をすくわれちゃうから、注意注意。
「おめでとうございます」
と、出迎えてくれたのはカイジョー以下カシオペア隊の面々だ。
電撃隊やラビティアなどは投降兵や、いまだに抵抗を続けている勢力の対処に当たっているらしい。
「魔法を使っていない将は何人いる?」
「シメイとペギー、アーシカ、カレンそれとノサウスの五人でしたか?」
「その通り」
カイジョーの指折り数えた報告にシメイが頷く。
「そこまで追い詰められてたのか?」
「いえ、みんな戦バカなんですよ」
と、呆れたようにペギーが言う。
ほんと、呆れちゃうね。
「それで効果切れの連中も戦後処理に当たってるのか?」
「ええ、指図するだけだからって」
や、ま、そりゃそうなんだけどさ。
「じゃあ、カシオペア隊も処理に当たってくれ。チャールズ、外の連中も入城するようにと連絡しろ」
その後、全軍が入城して武装解除、怪我人の手当て、死体処理、と並行して炊き出し、人員点呼などが行われた。
食事の支度が済んだ頃、城の二階にある大きなダイニングルームに移動して主だった武将とともにズラカルト男爵と夕食を取ることにした。
夕食と言ってみたがすっかり日も暮れていて晩飯という表現の方しっくりくる時間だ。
ズラカルト男爵以下武器はすべて取り上げられたものたちが全部で五人。
ズラカルト男爵の二人の息子とその執事、武将としてはボニーデイルただ一人。
およそ名のある敵将はワングレンのようにラビティアなどこちらの将に勝負を挑んではほとんどが討死、逃げのトゥウィンテルは今回も三百ほどの兵と場外に脱出したようだ。
まぁ、名のある武将ったって僕ほとんど知らなかったけどね。
静かな晩餐は粛々と過ぎてあらかた食事が終わる頃、ズラカルト男爵が厳かに口を開いた。
「それで、ワシはどうなるのかな?」
さて、どうしたもんかね?
「臣下に降る気は?」
と問いかけると、男爵以外の四人が気色ばむ。
「ない」
言下に断られちゃった。
「では、死んでいただかなければなりませんな」
「貴様っ!」
ボニーデイルが腰を浮かせるが、それを男爵が手で制する。
「であろうな」
覚悟はあるようだ。
さすがは腐っても領主貴族ってことか。
「父上」
と言ったのは兄の方。
「ならばワタシもお供します」
その宣言に男爵は答えない。
生殺与奪の権利は僕が握っていることを認識しているんだろう。
助命を願える立場ではないし、父として死なしたくはないという親心があるのに違いない。
弟の方は蒼ざめて俯いているだけ。
少年には酷な場所だな。
せっかくの食事なのに消化不良になりそうだ。
「私は寛大だ。配下となって忠勤に励むというのであれば敵対したものであっても受け入れる」
「お前のような百姓の軍門になど誰が降るものか!」
この息子、自分の立場が判っているのか?
お前、虜囚の身だぞ。
この場で処断することだってできる立場に僕はあるんだけど。
とりあえず弟に水を向けてみるか
「君はどうかな?」
「ボ、ボクは……」
なにか言おうとしたのを険しい視線と怒気で兄が黙らせてしまう。
困ったもんだ。
「兄がいると話しづらいのなら席を外させるが?」
「貴様にそんな権利は……」
「あるぞ」
「!?」
「どうやら自分の立場が判っていないようだな。この場でそれが判っていないのはお前だけだぞ」
「ウーイック」
重ねてなにかを言いかけた息子に男爵が声をかけた。
「我々は敗残の将だ。目の前にいるのは勝者だぞ。ジャン殿、息子の非礼は重ねてお詫びする」
と、頭を下げる。
「さて、アンデラスだったね。君はどうする?」
と、改めて弟に訊ねると
「ボ、ボクは……僕は臣下に降りたいと思います」
「貴様それでもズラカルト家の男か!」
と、また兄が激昂する。
これでは話が進まない。
僕は目配せでイラードとノサウスに彼を連れ出すように指示した。
二人に兄が連れ去られた後、アンデラスは訥々と思いを語り出した。
それによると、
まだ死にたくないという気持ちも正直強い。
だが、それ以上になにもできなかった自分が悔しい。
自分でなにができるのか、どこまでできるのか試してみたいのだ。
と。
「いいだろう。アンデラス、我が配下に加わり功をあげよ」
「では、ワタクシも配下に下りましょう。オルバック家の執事として、最後まで見届けるのがワタクシの生涯の仕事です」
「ならばオレも残る。だが、オレはお前には降らない。オレはあくまでもオルバック家の家臣だ。それでいいならだがな」
「構わんよ」
「ジャン殿、最後に娘たちはどうなるのだろうか」
「なんの罪もないものを処断するような悪党だとお思いか?」
「……ありがたい…………」
晩餐は感謝の言葉でお開きとなった。
なんか、ふわふわして地に足がついてないような心持ちだ。
気を引き締めないと、こういう時に足元をすくわれちゃうから、注意注意。
「おめでとうございます」
と、出迎えてくれたのはカイジョー以下カシオペア隊の面々だ。
電撃隊やラビティアなどは投降兵や、いまだに抵抗を続けている勢力の対処に当たっているらしい。
「魔法を使っていない将は何人いる?」
「シメイとペギー、アーシカ、カレンそれとノサウスの五人でしたか?」
「その通り」
カイジョーの指折り数えた報告にシメイが頷く。
「そこまで追い詰められてたのか?」
「いえ、みんな戦バカなんですよ」
と、呆れたようにペギーが言う。
ほんと、呆れちゃうね。
「それで効果切れの連中も戦後処理に当たってるのか?」
「ええ、指図するだけだからって」
や、ま、そりゃそうなんだけどさ。
「じゃあ、カシオペア隊も処理に当たってくれ。チャールズ、外の連中も入城するようにと連絡しろ」
その後、全軍が入城して武装解除、怪我人の手当て、死体処理、と並行して炊き出し、人員点呼などが行われた。
食事の支度が済んだ頃、城の二階にある大きなダイニングルームに移動して主だった武将とともにズラカルト男爵と夕食を取ることにした。
夕食と言ってみたがすっかり日も暮れていて晩飯という表現の方しっくりくる時間だ。
ズラカルト男爵以下武器はすべて取り上げられたものたちが全部で五人。
ズラカルト男爵の二人の息子とその執事、武将としてはボニーデイルただ一人。
およそ名のある敵将はワングレンのようにラビティアなどこちらの将に勝負を挑んではほとんどが討死、逃げのトゥウィンテルは今回も三百ほどの兵と場外に脱出したようだ。
まぁ、名のある武将ったって僕ほとんど知らなかったけどね。
静かな晩餐は粛々と過ぎてあらかた食事が終わる頃、ズラカルト男爵が厳かに口を開いた。
「それで、ワシはどうなるのかな?」
さて、どうしたもんかね?
「臣下に降る気は?」
と問いかけると、男爵以外の四人が気色ばむ。
「ない」
言下に断られちゃった。
「では、死んでいただかなければなりませんな」
「貴様っ!」
ボニーデイルが腰を浮かせるが、それを男爵が手で制する。
「であろうな」
覚悟はあるようだ。
さすがは腐っても領主貴族ってことか。
「父上」
と言ったのは兄の方。
「ならばワタシもお供します」
その宣言に男爵は答えない。
生殺与奪の権利は僕が握っていることを認識しているんだろう。
助命を願える立場ではないし、父として死なしたくはないという親心があるのに違いない。
弟の方は蒼ざめて俯いているだけ。
少年には酷な場所だな。
せっかくの食事なのに消化不良になりそうだ。
「私は寛大だ。配下となって忠勤に励むというのであれば敵対したものであっても受け入れる」
「お前のような百姓の軍門になど誰が降るものか!」
この息子、自分の立場が判っているのか?
お前、虜囚の身だぞ。
この場で処断することだってできる立場に僕はあるんだけど。
とりあえず弟に水を向けてみるか
「君はどうかな?」
「ボ、ボクは……」
なにか言おうとしたのを険しい視線と怒気で兄が黙らせてしまう。
困ったもんだ。
「兄がいると話しづらいのなら席を外させるが?」
「貴様にそんな権利は……」
「あるぞ」
「!?」
「どうやら自分の立場が判っていないようだな。この場でそれが判っていないのはお前だけだぞ」
「ウーイック」
重ねてなにかを言いかけた息子に男爵が声をかけた。
「我々は敗残の将だ。目の前にいるのは勝者だぞ。ジャン殿、息子の非礼は重ねてお詫びする」
と、頭を下げる。
「さて、アンデラスだったね。君はどうする?」
と、改めて弟に訊ねると
「ボ、ボクは……僕は臣下に降りたいと思います」
「貴様それでもズラカルト家の男か!」
と、また兄が激昂する。
これでは話が進まない。
僕は目配せでイラードとノサウスに彼を連れ出すように指示した。
二人に兄が連れ去られた後、アンデラスは訥々と思いを語り出した。
それによると、
まだ死にたくないという気持ちも正直強い。
だが、それ以上になにもできなかった自分が悔しい。
自分でなにができるのか、どこまでできるのか試してみたいのだ。
と。
「いいだろう。アンデラス、我が配下に加わり功をあげよ」
「では、ワタクシも配下に下りましょう。オルバック家の執事として、最後まで見届けるのがワタクシの生涯の仕事です」
「ならばオレも残る。だが、オレはお前には降らない。オレはあくまでもオルバック家の家臣だ。それでいいならだがな」
「構わんよ」
「ジャン殿、最後に娘たちはどうなるのだろうか」
「なんの罪もないものを処断するような悪党だとお思いか?」
「……ありがたい…………」
晩餐は感謝の言葉でお開きとなった。