第324話 ひとり執務室で 1
文字数 2,143文字
状況確認を終え僕は一人地図を広げて腕を組み、うんうんと唸っていた。
版図が急拡大したのは嬉しいことだ。
しかし、そのことで悩むことになる。
まず、アシックサル領全域を支配下に収めたと言ってもそれは形の上でしかない。
実際には砦や城を落としただけであって町や村にはなにも手をつけていないからだ。
村ならば役人を派遣して「今日からこの村はジャン様の領地だ」とでも触れ回れば年貢の納め先が変更になる程度のことだと思うだろうから「はぁ、そうですか」で済むかもしれない。
が、町はその限りじゃない。
町には町を治める役人がいる。
最低限の守備兵もいるだろう。
彼らがアシックサル季爵に対してどれほどの忠誠心を持っているかで違ってくるだろうし、これを機に土豪として独立してやろうと画策するような輩が出ないとも限らない。
そんな征服したての領地を誰に任そうか?
どれほどの兵を駐留させようか?
そんなこんなを自領に帰るまでに決定しなければいけない。
帰還の期限は決まっている。
いわゆる尻 カッチンの状態で、最悪でも死体理処理が終わるまでというのが最終期限 。
おそらく五日とないだろう。
まだ領境の決まっていないオッカメー季爵領の動向も気がかりだ。
オクサのことだから今押さえているオッカメー領の大部分は押さえてくれると思うけど、そこを誰に任せるかにも頭を悩ませなきゃいけない。
すでに治安の安定している旧ズラカルト領から有能な文官を引き抜くとして適当な穴埋めでは治安の悪化、人心の荒廃を招く恐れがある。
あー、いつまでも旧ズラカルト領ってのもアレだな。
ジャン領っていうなら、今ここアシックサル領もアシックサル季爵が生きていたとしても実効支配しているのは僕なのだからジャン領とも言える。
だいたい、いくら文明水準が未熟だからといっても地名くらいちゃんと命名しといてもらいたかったよ。
かれこれ五百年も続いた王国なんだろうが。
(ついでに全部名前付け直しちゃえばいいのよ)
(ま、そうだわな)
リリムに言われるまでもなく名前をつけることにした。
不便でしょうがないからね。
さて、まずは地図の確認だ。
僕が転生して生まれ育った村は王国北西部の最奥の地。
ズラカルト男爵が最奥の村と呼んでいた人口三十人ほどの集落だった。
今は僕が最初に任命した村長の名を取ってバロ村と呼ばれている。
そのバロ村を含む狭隘な山間部であるオグマリー区と旧ズラカルト領の大穀倉地ヒロガリー区、今はルダーの農業政策で随分と改善されたが不毛の棄民地だったハングリー区、そしてズラカルト男爵が居を構えアシックサル季爵、ドゥナガール仲爵領と隣接する領の中心ズラカリー区を合わせて旧ズラカリー領と呼ばれていたわけだ。
むーん……。
「サイオウと呼ぶことにしよう」
「安直ね」
部屋に誰もいないからか念話じゃなく直接声に出してくる。
そこまでしてそれを伝えたいか、リリム。
「由来が判りやすい方が名付けルールとして利用しやすいしだろ?」
「へぇ、一応考えていたんだ」
「お、おぅ」
「ふーん……」
とりあえず咳払いをしておこう。
次はアシックサル領だ。
王国の西の端ではあるけれど、山脈沿いに五つの領地があった。
今は誰がどのように支配しているか判らないけど、正統な領主はアシックサルを含めて五家いたということだ。
ここで安易にニシハシとかセイタンとかつけると例えば今アシックサルに征服されてしまったヒョートコ男爵領にはなんてつける?
と、ここでまた悩むことになるだろう。
……いや、どっちかをニシハシにしてどっちかをセイタンにすれば解決か?
さすがにそれは安直がすぎるか。
そうだ。
「旧アシックサル領はオウチ、ヒョートコ領はヒットコとする」
「名付けのルールから逸脱してるけど?」
「ルールに縛られると地域一体が似たような名前になってしまって混乱するだろ」
「ものは言いようね」
「オッカメー領は語感がいいからそのままオッカメーがいいな」
「もう面倒になってる」
む、返す言葉がない。
新領地オウチは町の数が十六町に砦が五つ。
そのうち侵攻に際して陥してきたのが砦四つに町二つ、そして城を構えた領都である。
あ、違う。
指示を出したのは二町だけど、グリフ族関連でもう二つ町を陥したと事後報告を受けていたな。
となると素通りした町が十二町、未だ軍が駐屯している砦が一つ残っていることになるわけだ。
砦は帰りがけに陥す、いや、できれば無血開城したいところだな。
町の方はまぁ大きな抵抗なく接収できるんじゃないか?
オッカメー領は総町数十八、うち五ヶ町がアシックサル軍に占領されていた。
今はすべて取り返し、僕の実効支配下にある。
そのほかに三剣を向かわせた三ヶ町がドゥナガールとの交渉でどうなるか。
そうそう、オッカメー領の対アシックサル砦が二つ。
一つはアシックサル軍に陥されたものを僕が陥落させているけれど、もう一ヶ所の砦はどうなるだろう?
場所はたしかドゥナガール領との領境でもある三つ巴の地、まだ陥していないアシックサルの砦ってのがこの地の砦である。
さて、ここはどうしたものかな。
帰りの道々考えて砦に着くまでに考えをまとめることにしよう。
そうしよう。
版図が急拡大したのは嬉しいことだ。
しかし、そのことで悩むことになる。
まず、アシックサル領全域を支配下に収めたと言ってもそれは形の上でしかない。
実際には砦や城を落としただけであって町や村にはなにも手をつけていないからだ。
村ならば役人を派遣して「今日からこの村はジャン様の領地だ」とでも触れ回れば年貢の納め先が変更になる程度のことだと思うだろうから「はぁ、そうですか」で済むかもしれない。
が、町はその限りじゃない。
町には町を治める役人がいる。
最低限の守備兵もいるだろう。
彼らがアシックサル季爵に対してどれほどの忠誠心を持っているかで違ってくるだろうし、これを機に土豪として独立してやろうと画策するような輩が出ないとも限らない。
そんな征服したての領地を誰に任そうか?
どれほどの兵を駐留させようか?
そんなこんなを自領に帰るまでに決定しなければいけない。
帰還の期限は決まっている。
いわゆる
おそらく五日とないだろう。
まだ領境の決まっていないオッカメー季爵領の動向も気がかりだ。
オクサのことだから今押さえているオッカメー領の大部分は押さえてくれると思うけど、そこを誰に任せるかにも頭を悩ませなきゃいけない。
すでに治安の安定している旧ズラカルト領から有能な文官を引き抜くとして適当な穴埋めでは治安の悪化、人心の荒廃を招く恐れがある。
あー、いつまでも旧ズラカルト領ってのもアレだな。
ジャン領っていうなら、今ここアシックサル領もアシックサル季爵が生きていたとしても実効支配しているのは僕なのだからジャン領とも言える。
だいたい、いくら文明水準が未熟だからといっても地名くらいちゃんと命名しといてもらいたかったよ。
かれこれ五百年も続いた王国なんだろうが。
(ついでに全部名前付け直しちゃえばいいのよ)
(ま、そうだわな)
リリムに言われるまでもなく名前をつけることにした。
不便でしょうがないからね。
さて、まずは地図の確認だ。
僕が転生して生まれ育った村は王国北西部の最奥の地。
ズラカルト男爵が最奥の村と呼んでいた人口三十人ほどの集落だった。
今は僕が最初に任命した村長の名を取ってバロ村と呼ばれている。
そのバロ村を含む狭隘な山間部であるオグマリー区と旧ズラカルト領の大穀倉地ヒロガリー区、今はルダーの農業政策で随分と改善されたが不毛の棄民地だったハングリー区、そしてズラカルト男爵が居を構えアシックサル季爵、ドゥナガール仲爵領と隣接する領の中心ズラカリー区を合わせて旧ズラカリー領と呼ばれていたわけだ。
むーん……。
「サイオウと呼ぶことにしよう」
「安直ね」
部屋に誰もいないからか念話じゃなく直接声に出してくる。
そこまでしてそれを伝えたいか、リリム。
「由来が判りやすい方が名付けルールとして利用しやすいしだろ?」
「へぇ、一応考えていたんだ」
「お、おぅ」
「ふーん……」
とりあえず咳払いをしておこう。
次はアシックサル領だ。
王国の西の端ではあるけれど、山脈沿いに五つの領地があった。
今は誰がどのように支配しているか判らないけど、正統な領主はアシックサルを含めて五家いたということだ。
ここで安易にニシハシとかセイタンとかつけると例えば今アシックサルに征服されてしまったヒョートコ男爵領にはなんてつける?
と、ここでまた悩むことになるだろう。
……いや、どっちかをニシハシにしてどっちかをセイタンにすれば解決か?
さすがにそれは安直がすぎるか。
そうだ。
「旧アシックサル領はオウチ、ヒョートコ領はヒットコとする」
「名付けのルールから逸脱してるけど?」
「ルールに縛られると地域一体が似たような名前になってしまって混乱するだろ」
「ものは言いようね」
「オッカメー領は語感がいいからそのままオッカメーがいいな」
「もう面倒になってる」
む、返す言葉がない。
新領地オウチは町の数が十六町に砦が五つ。
そのうち侵攻に際して陥してきたのが砦四つに町二つ、そして城を構えた領都である。
あ、違う。
指示を出したのは二町だけど、グリフ族関連でもう二つ町を陥したと事後報告を受けていたな。
となると素通りした町が十二町、未だ軍が駐屯している砦が一つ残っていることになるわけだ。
砦は帰りがけに陥す、いや、できれば無血開城したいところだな。
町の方はまぁ大きな抵抗なく接収できるんじゃないか?
オッカメー領は総町数十八、うち五ヶ町がアシックサル軍に占領されていた。
今はすべて取り返し、僕の実効支配下にある。
そのほかに三剣を向かわせた三ヶ町がドゥナガールとの交渉でどうなるか。
そうそう、オッカメー領の対アシックサル砦が二つ。
一つはアシックサル軍に陥されたものを僕が陥落させているけれど、もう一ヶ所の砦はどうなるだろう?
場所はたしかドゥナガール領との領境でもある三つ巴の地、まだ陥していないアシックサルの砦ってのがこの地の砦である。
さて、ここはどうしたものかな。
帰りの道々考えて砦に着くまでに考えをまとめることにしよう。
そうしよう。