第64話 ゆけ! ゆけ! ジャン・ロウ探検隊!!
文字数 2,290文字
三人の行方不明から三日、僕らは捜索隊を編成して主の森に入ることになった。
昨日、捜索隊を投入する旨を発表して、今日朝早くに町を出た。
捜索隊長は当然僕。
お館派からは村の主戦力五人とカシオペアの五人を。
反お館派からはドブルたち行方不明者の親族ら七人と、反お館派の中心人物とみられるギラン、エギュー、ジャミルトの十人を選抜した。
急先鋒の彼らを御 していれば、僕の町長の地位はとりあえず安泰だ。
反お館派の十人には全員に帯剣させている。
剣はジャリの打った数打ちの短剣だ。
防具は残念ながら用意できていない。
対男爵を想定した大事な防具をこんなところで消費するわけにいかないんだ。
そもそもまだ五領も作られていないから全員に支給ってわけにいかないし、誰かに与えると不公平だしね。
お館派は全員自分の装備を持っている。
まぁ、彼らはそもそも荒事専門だし。
ちなみに僕はその貴重な革の胴鎧を着て、ドブルとの稽古で改良した僕専用の木刀型の剣を持っている。
胴鎧は贅沢にも胸部装甲を鉄板で補強している。
剣の剣先は刺突できるように尖らせているけど、斬れる刃のないモデルだ。
どうもまだ刃のある剣を振ると軌道がぶれるんだよね。
前世では何度か真剣で試し斬りさせてもらったことがあるんだけど、あれは剣道をかじった程度の人間がやっちゃダメなやつだ。
午前中いっぱい雑木林の中を捜索。
当たり前だけど手かがりはなかった。
そりゃそうだ。
三人が森に入ったことはサビーが確認しているし、主が咆哮したのを聞いている。
念のために腹ごしらえをして、三人が侵入した場所から主の領域に踏み入る。
主の森は雑木林と違って鬱蒼とした原始林だ。
当たり前ながら手付かずで、腰の高さほどもある下草も生え放題。
だからどこから入ったのか見当がついたわけだ。
入って三日も立っているからか、さすがに雑草の生命力というのか、すぐに侵入ルートが判らなくなる。
その中を僕を中心に、互いに姿が確認できる範囲に広がってワシワシとかき分けていく。
(リリム)
(なに?)
(ちょっと僕の思考に付き合ってくれない?)
(いいわよ)
(主はどうやって侵入者を見つけると思う?)
いや、なんで出発前に考えておかないんだとか聞かないで欲しいんだけど、そりゃあまああれだ、森の中に入って初めて疑問に思ったからだ。
主がどんな存在なのか、僕には見当もつかない。
なにせ情報がなさすぎる。
仮に生き物だとする。
「主」なんていうくらいだからたぶん単独の個体なんだろう。
だとすればどれくらい広がっているのか判らないけど、この広い森をどうやって見張っているんだ?
(面白いこと考えるのね?)
(そうかな? 当たり前の疑問じゃないかな?)
例えば野生動物は縄張り を巡回し、マーキングする。
けど、巡回するったって人間のパトロールの事例を出すまでもなく、ピンポイントで侵入者を発見できるわけがない。
ところが今回を含めて僕の知っている四回すべてで半日としないうちに侵入に気づいて咆哮を上げている。
たぶん過去の事例も多少の誤差があったとして、半日以上無事でいたことはないだろう。
だって、半日無事でいられれば森から抜け出せると思うんだよね。
(ジャンはどうやってると思うの?)
(僕? んーん……どうやっているかってのは判んないけど、僕ならどうするかってことなら……)
まずはできないことがない前提で考えてみよう。
(僕が生きていた前世技術なら、監視カメラとか赤外線とかの侵入検知機なんてのがあるよね)
(結界的な?)
おぉ!
魔法が使えるならそういうのもアリだよね。
でもそれならバリヤー的な侵入できない系の魔法を展開すりゃいいんじゃないかな?
(またテキとかケイとか言ってる)
…………。
(魔法は万能じゃないからね。魔法を使うには魔法の規模とか難易度相応の魔力が必要だし、そもそも複雑な魔法には複雑で高度な準備が必要なんだから)
そこらへんは科学技術も似たようなもんだから察しはつくよ。
(あと考えられるのは『主』が実は一個体じゃなくてある一定規模の集団で、警備に当たっている説?)
(ジャン的にその考え方の可能性は何%?)
リリムだって「的」使ってんじゃん。
(プリプリしてないで質問に答えてよ)
…………。
(0%)
(なんでよ?)
(巡回してるんなら道ができてなきゃおかしいだろ?)
(すごい。頭いい!)
…………。
(なによ? せっかく褒めてるのに)
まぁ、嬉しくないわけじゃないけどね?
(あとは超絶達人的に気配が感知できる説? テリトリーの範囲がその気配感知の範囲っていう)
(ありえるの?)
(戦うのがわくわくスっくらいの超人か、小宇宙でも感じられるくらいじゃないと難しいけどね)
(てことは魔法結界説がジャンの中では一番可能性が高いってことでファイナルアンサー?)
(ふむ、そういうことになるね)
(じゃあ……)
(うん、これだけ大規模に人が入って気づいてないなんておかしいってことだよ)
でも、僕は密集隊形は命じない。
主の森に入ると決めた以上、主と対峙することは決定事項だ。
今更びびってこじんまりとまとまっていてもいいことはない。
(前世の)先人も「慎重かつ大胆に」と言っていたじゃありませんか。
たぶん原典は朱子学の入門書と言われる近思録の
胆欲大 而心欲小
……すげぇ意訳よね。
「お館様」
オギンが声をかけてくる。
誰かがなにか見つけたようだ。
行ってみるとそこの下草がひどく乱れている。
争ったあと?
そんな感想が頭に浮かんだ直後、耳をつんざくような咆哮が辺りを満たした。
昨日、捜索隊を投入する旨を発表して、今日朝早くに町を出た。
捜索隊長は当然僕。
お館派からは村の主戦力五人とカシオペアの五人を。
反お館派からはドブルたち行方不明者の親族ら七人と、反お館派の中心人物とみられるギラン、エギュー、ジャミルトの十人を選抜した。
急先鋒の彼らを
反お館派の十人には全員に帯剣させている。
剣はジャリの打った数打ちの短剣だ。
防具は残念ながら用意できていない。
対男爵を想定した大事な防具をこんなところで消費するわけにいかないんだ。
そもそもまだ五領も作られていないから全員に支給ってわけにいかないし、誰かに与えると不公平だしね。
お館派は全員自分の装備を持っている。
まぁ、彼らはそもそも荒事専門だし。
ちなみに僕はその貴重な革の胴鎧を着て、ドブルとの稽古で改良した僕専用の木刀型の剣を持っている。
胴鎧は贅沢にも胸部装甲を鉄板で補強している。
剣の剣先は刺突できるように尖らせているけど、斬れる刃のないモデルだ。
どうもまだ刃のある剣を振ると軌道がぶれるんだよね。
前世では何度か真剣で試し斬りさせてもらったことがあるんだけど、あれは剣道をかじった程度の人間がやっちゃダメなやつだ。
午前中いっぱい雑木林の中を捜索。
当たり前だけど手かがりはなかった。
そりゃそうだ。
三人が森に入ったことはサビーが確認しているし、主が咆哮したのを聞いている。
念のために腹ごしらえをして、三人が侵入した場所から主の領域に踏み入る。
主の森は雑木林と違って鬱蒼とした原始林だ。
当たり前ながら手付かずで、腰の高さほどもある下草も生え放題。
だからどこから入ったのか見当がついたわけだ。
入って三日も立っているからか、さすがに雑草の生命力というのか、すぐに侵入ルートが判らなくなる。
その中を僕を中心に、互いに姿が確認できる範囲に広がってワシワシとかき分けていく。
(リリム)
(なに?)
(ちょっと僕の思考に付き合ってくれない?)
(いいわよ)
(主はどうやって侵入者を見つけると思う?)
いや、なんで出発前に考えておかないんだとか聞かないで欲しいんだけど、そりゃあまああれだ、森の中に入って初めて疑問に思ったからだ。
主がどんな存在なのか、僕には見当もつかない。
なにせ情報がなさすぎる。
仮に生き物だとする。
「主」なんていうくらいだからたぶん単独の個体なんだろう。
だとすればどれくらい広がっているのか判らないけど、この広い森をどうやって見張っているんだ?
(面白いこと考えるのね?)
(そうかな? 当たり前の疑問じゃないかな?)
例えば野生動物は
けど、巡回するったって人間のパトロールの事例を出すまでもなく、ピンポイントで侵入者を発見できるわけがない。
ところが今回を含めて僕の知っている四回すべてで半日としないうちに侵入に気づいて咆哮を上げている。
たぶん過去の事例も多少の誤差があったとして、半日以上無事でいたことはないだろう。
だって、半日無事でいられれば森から抜け出せると思うんだよね。
(ジャンはどうやってると思うの?)
(僕? んーん……どうやっているかってのは判んないけど、僕ならどうするかってことなら……)
まずはできないことがない前提で考えてみよう。
(僕が生きていた前世技術なら、監視カメラとか赤外線とかの侵入検知機なんてのがあるよね)
(結界的な?)
おぉ!
魔法が使えるならそういうのもアリだよね。
でもそれならバリヤー的な侵入できない系の魔法を展開すりゃいいんじゃないかな?
(またテキとかケイとか言ってる)
…………。
(魔法は万能じゃないからね。魔法を使うには魔法の規模とか難易度相応の魔力が必要だし、そもそも複雑な魔法には複雑で高度な準備が必要なんだから)
そこらへんは科学技術も似たようなもんだから察しはつくよ。
(あと考えられるのは『主』が実は一個体じゃなくてある一定規模の集団で、警備に当たっている説?)
(ジャン的にその考え方の可能性は何%?)
リリムだって「的」使ってんじゃん。
(プリプリしてないで質問に答えてよ)
…………。
(0%)
(なんでよ?)
(巡回してるんなら道ができてなきゃおかしいだろ?)
(すごい。頭いい!)
…………。
(なによ? せっかく褒めてるのに)
まぁ、嬉しくないわけじゃないけどね?
(あとは超絶達人的に気配が感知できる説? テリトリーの範囲がその気配感知の範囲っていう)
(ありえるの?)
(戦うのがわくわくスっくらいの超人か、小宇宙でも感じられるくらいじゃないと難しいけどね)
(てことは魔法結界説がジャンの中では一番可能性が高いってことでファイナルアンサー?)
(ふむ、そういうことになるね)
(じゃあ……)
(うん、これだけ大規模に人が入って気づいてないなんておかしいってことだよ)
でも、僕は密集隊形は命じない。
主の森に入ると決めた以上、主と対峙することは決定事項だ。
今更びびってこじんまりとまとまっていてもいいことはない。
(前世の)先人も「慎重かつ大胆に」と言っていたじゃありませんか。
たぶん原典は朱子学の入門書と言われる近思録の
……すげぇ意訳よね。
「お館様」
オギンが声をかけてくる。
誰かがなにか見つけたようだ。
行ってみるとそこの下草がひどく乱れている。
争ったあと?
そんな感想が頭に浮かんだ直後、耳をつんざくような咆哮が辺りを満たした。